ユビキチン化においてタンパク質の標的化を担うE3ユビキチンリガーゼのひとつであるneural precursor cell expressed developmentally down-regulated (Nedd) 4-2 は、342番目のSerや448番目のSerなどの複数のアミノ酸残基がリン酸化されることが知られている。昨年度までの研究により、このNedd 4-2 リン酸化体のひとつであるp-Nedd4-2 (Ser342)の発現量のみが、4時間の拘束ストレスを14日間慢性負荷したストレス非適応モデルマウス(非適応マウス)の海馬において特異的に減少することを見出している。一方、1時間の拘束ストレスを14日間慢性負荷したストレス適応モデルマウス(適応マウス)の海馬においては変化が認められなかった。 本年度は、はじめに、この非適応マウスの海馬で認められたp-Nedd4-2 (Ser342)の減少が生じる細胞の同定を行った。免疫組織化学法を用いて検討したところ、p-Nedd4-2 (Ser342)は、海馬の神経細胞において高発現することが明らかとなった。そこで、マウス海馬神経細胞由来の株化細胞であるHT22細胞を用いて、ストレス負荷により脳内で上昇することが知られているコルチコステロンが、神経細胞に及ぼす影響を検討した。高濃度のコルチコステロン(10μM以上)の曝露は、HT22細胞の生存率を有意に低下させたものの、3μM以下の濃度では生存率の低下は認められなかった。また、この細胞毒性を示さない濃度のコルチコステロンを24時間曝露したHT22細胞では、p-Nedd4-2(Ser342)の発現量が減少した。一方、Nedd4-2の発現レベルには顕著な変化は認められなかった。以上の結果より、ストレス負荷により増加するコルチコステロンは、海馬神経細胞のNedd4-2の活性化を制御する因子のひとつであることが示唆された。
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