研究課題/領域番号 |
17K15762
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
原 愛 (野上愛) 就実大学, 薬学部, 助教 (30614953)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | L-アスパラギナーゼ / 薬物アレルギー / アレルギー / 小児白血病 / 急性リンパ性白血病 / モデル動物 |
研究実績の概要 |
L-アスパラギナーゼ(L-ASP)は、小児急性リンパ性白血(ALL)の第一選択薬であるが、高頻度でアレルギー反応を生じるため治療中止を余儀なくされ、ALLの治療完遂が困難となる。ALL治療においてL-ASPアレルギー発症が重要な課題であるにも関わらず、L-ASPアレルギーの有効な予防・治療方法はなく、L-ASPアレルギーの特徴も解明されていない。本研究は、患者への負担を最小限に出来る微量血清を用いた「L-ASPアレルギーのin vitro評価系」と「L-ASP特異的抗体検出チップ」を開発し、L-ASPアレルギーを迅速かつ高感度に診断する方法を構築する。さらに、L-ASPアレルギーに対するIgE中和抗体の有用性を明らかにする。これらを通じて、L-ASPアレルギーの予見と克服を可能にし、白血病治療に貢献することが本研究の目的である。 初年度は、L-ASPアレルギーのモデルマウスの血清を用いて「L-ASPアレルギーのin vitro評価系」を開発し、L-ASPアレルギーの特徴を明らかにするとともに、L-ASPアレルギーに対する抗IgE抗体の有効性を検討した。L-ASPアレルギーのモデルマウスより採取した血清を用いてIgE受容体(FcεRI)を発現する培養肥満細胞(RBL-2H3細胞)を感作したところ、L-ASP抗原を添加することで肥満細胞が活性化することが示された。さらにこの活性化は、あらかじめ抗IgE抗体を加えることで抑制された。これらの結果より、L-ASPアレルギーはIgEを介した反応であり、L-ASPアレルギーのモデルマウスに対して抗IgE抗体が有効であることが明らかになったことから、L-ASPアレルギーのin vitro評価系の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、L-ASPアレルギーがIgEを介したⅠ型アレルギー反応であるのかを解明し、抗IgE抗体の有効性を明らかにするために「L-ASPアレルギーのin vitro評価系」と「L-ASP特異的抗体検出チップ」の開発を計画していた。これまでに、L-ASPアレルギーのモデルマウスより採取した血清を用いて「L-ASPアレルギーのin vitro評価系」の開発に成功し、L-ASPアレルギーはIgEを介した反応であり、L-ASPアレルギーのモデルマウスに対して抗IgE抗体が有効であることが明らかになった。一方「L-ASP特異的抗体検出チップ」の開発に関しては、開発に向けた以下の知見は得ることが出来たが、申請時にチップ開発の内諾を得ていた応用酵素医学研究所の業務内容見直しの影響を受けて、開発が遅れているのが現状である。すなわち、これまでにL-ASPアレルギーのモデルマウスでは無感作マウスと比較して血清中総IgE量が増加するが、抗IgE抗体を投与したモデルマウスでは対象群以下にまで低下することをELISA法で確認した。また「L-ASPアレルギーのin vitro評価系」において、RBL-2H3細胞の活性化はIgEを介するL-ASP特異的な抗原抗体反応によって惹起されることから、L-ASPアレルギーのモデルマウスの血清中にL-ASP特異的IgEが含まれることが示唆された。今後、引き続き「L-ASP特異的抗体検出チップ」の開発に取り組むとともに、並行してELISA法を応用したL-ASP特異的IgEの定量 系の開発に取り組む計画である。
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今後の研究の推進方策 |
L-ASPアレルギーのモデルマウス血清を用いて「L-ASPアレルギーのin vitro評価系」の開発に成功し、L-ASPアレルギーはIgEを介した反応であり、L-ASPアレルギーのモデルマウスに対して抗IgE抗体が有効であることが明らかになった。今後は、ヒト高親和性IgE受容体を発現した肥満細胞株であるRS-ATL8細胞をL-ASPの治療経験がある患者血清で感作してL-ASP刺激を行うことにより、L-ASPアレルギー患者の血清が肥満細胞を活性化させるIgEを含有するか否かについて検討する。この実験系を用いて、抗IgE抗体であるオマリズマブの患者に対する有効性についても、in vitroで評価できるようにする。また引き続き「L-ASP特異的抗体検出チップ」の開発ならびにL-ASP特異的ELISAの開発に取り組み、アレルギー発症の契機となるL-ASP特異的IgE、ならびに臨床上薬効を低下させることで問題となるL-ASPに対する中和抗体としてのIgGの定性・定量化を行う。さらに、L-ASPの薬効に対する中和抗体の関与を明らかにするとともに、L-ASPアレルギーを抑制するために抗IgE抗体であるオマリズマブを併用してもL-ASPによる治療効果には影響しないことを明らかにする目的で、ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株であるMOLT-4、CCRF細胞を用いた検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の支出が当初の計画よりも少なかったため次年度使用額が生じた。その主な理由として、研究代表者が産前・産後休暇および育児休暇を取得し、研究が中断したことが挙げられる。学会発表に伴う旅費の支出や、小型超低温槽の購入によるその他の支出は、研究が中断する前に計画通り実施した。次年度使用額は、研究再開後に物品費として主に使用する予定である。
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