研究課題/領域番号 |
17K15765
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
村上 浩子 (古田島浩子) 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 研究員 (60619592)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自閉症 / バルプロ酸 / エタノール |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(自閉症)は「社会性」に困難を抱える神経発達障害の一つである。自閉症の発症は遺伝的要因が強く示唆されているが母胎を介した薬剤曝露などの後天的要因も関与する。しかしながら、胎生期の薬剤曝露によって子の社会性行動障害が生じるメカニズムは明らかでない。本研究は、胎生期の曝露によって子の社会性行動障害を生じ、なおかつγ-アミノ酪酸(GABA)作用に影響するバルプロ酸とエタノールに着目し、胎生期の薬剤曝露動物を用いて、後天的要因によって生じる社会性行動障害の病態解明を目指す。当該年度は、主に胎生期におけるバルプロ酸及びエタノール曝露の行動への影響を比較・解析した。妊娠12.5日の母マウスにバルプロ酸あるいはエタノールを投与し、コントロールマウスには生理食塩水を投与した。胎生期バルプロ酸曝露マウス(バルプロ酸マウス)はコントロールマウスと比較して、幼若期における身体成熟の遅延(体重減少、開眼の遅延)や運動機能の障害(姿勢反射の遅延)が見られた。社会性行動においては、5-6週齢(若齢期)と10-11週齢(成熟期)の双方において、コントロールマウスと比較してバルプロ酸マウスは社会性行動時間の減少を示した。胎生期エタノール曝露マウス(エタノールマウス)はコントロールマウスと比較して、身体成熟の遅延や運動機能の障害は見られなかった。社会性行動においては、5-6週齢(若齢期)においては社会性行動時間が減少する傾向が見られ、10-11週齢(成熟期)においては社会性行動時間が減少していた。以上から、両マウスモデルにおいて社会性行動の障害は共通して見られるが、幼若期における身体成熟や運動機能の表現系が異なることを見いだした。本年度の成果より、エタノール曝露による新しい発達障害モデルマウスを作製することで薬剤曝露による社会性行動障害の解明に貢献できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
妊娠マウスの出産匹数や雌雄の比にばらつきがあり、当初の計画より匹数が揃うのに、時間を要した。現在の解析対象条件は、7-8匹生まれ、かつ雌雄の比がなるべく均等になっている家系(7匹生まれの場合は、3匹-4匹(各匹数は雌雄いずれでも可),8匹生まれの場合は4匹-4匹)に絞っている。行動解析に関しては、ピクロトキシン投与による行動への影響が見られなかったため、現在薬剤をビククリンに変更し解析中である。上記より、当初の予定よりやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、両モデルマウスにおけるGABAA受容体阻害剤の行動解析における検討を行い、薬剤曝露による社会性行動への影響を解析する。さらに、バルプロ酸やエタノール曝露とGABAA受容体阻害剤による仔の興奮性、抑制性ニューロンへの影響を組織化学的に解析し、各ニューロンの関連遺伝子発現への影響を検討する。組織化学、及び分子解析においては、社会性行動の障害が明確に観察された10週齢のサンプルを主に使用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
得られた研究成果の一部を2018年度のCINP2018(国際神経精神薬理学会, ウィーンにて開催)にて発表するので、発表準備費、参加登録費、旅費、宿泊費、などが必要となったため。
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備考 |
第5回 Congress of Asian College of Neuropsychopharmacology においてJSNP Excellent Presentation Award for AsCNP 2017を受賞した。
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