自閉症の発症メカニズムとして、薬剤曝露などの後天的な要因も示されてきた。しかしながら、胎生期の薬剤曝露によってなぜ社会性行動障害が生じるかは明らかでない。本研究は、γ-アミノ酪酸(GABA)作用に影響するバルプロ酸とエタノールに着目し、後天的要因によって生じる社会性行動障害の病態解明を目指した。 前年度に引き続き、行動解析を実施し、遺伝子解析、組織化学解析も開始した。確立された自閉症モデル動物である胎生期バルプロ酸曝露マウスの行動解析を行い、身体成熟や運動機能、社会性行動の低下を示すことを確認した。同様のプロトコールで、エタノール曝露マウスの行動解析を行うと、社会性行動の低下は示すが、身体成熟や運動機能の低下は見られないことを見出した。GABAA受容体の阻害剤であるピクロトキシンの同時期投与によって、行動にどのような影響が出るのかを検討したところ、バルプロ酸およびエタノール曝露マウスの社会性行動の低下は改善を示した。一方で、ピクロトキシン単体で投与したマウスにおいては、社会性行動の低下が示されたので、新たな自閉症モデル動物となる可能性を見出した。確立された自閉症モデルである胎生期バルプロ酸曝露マウスの脳における遺伝子発現解析を行ったところ、GABAシグナル関連遺伝子が有意な変化を示し、自閉症様行動にGABAシグナルの異常が関連していることを確認した。組織化学解析において、ピクロトキシン曝露マウスの各脳部位のc-fos活性を調べたところ、コントロールマウスに比べて、活性の低下が確認された。本研究成果によって、胎生期における薬剤曝露による新たな自閉症モデルマウスが作成され、胎生期におけるGABAシグナルの異常と社会性行動障害の関連が見出された。
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