本研究では侵襲性感染症を引き起こす無莢膜型のインフルエンザ菌(NTHi)における侵襲性に関わる因子などを同定することを目的に、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム配列データの取得を行った。 これまでに侵襲性感染症症例として患者の血液または髄液から分離されたNTHi株28株、非侵襲性感染症症例として肺炎患者の喀痰から分離されたNTHi株10株、健常保菌者の上咽頭より採取・分離されたNTHi株10株について、次世代シーケンサーPacBio RS IIおよびSequelを用いて配列データを取得し、HGAPソフトウェアを用いたde novo assembleにより配列長1.79~1.98Mbpの全ゲノム配列を決定した。ロングリードであるPacBioによる配列データと、ショートリードであるイルミナ社MiSeqによる配列データの比較を行い、PacBioによる全ゲノム配列の決定では、homopolymerの配列は正確に決定しにくいものの、相同性の高い領域や繰り返し配列も正確に決定できることが確認できた。また、公共データベースNCBIにおいて完全長ゲノム配列が公開されているインフルエンザ菌14株の配列情報をリファレンス配列として、全ゲノム配列を決定したNTHi株と比較した結果、塩基配列レベルでの一致率が71~91%であった。NTHi株間においても一致率は70~92%であり、かなりの多様性が存在していることが明らかとなった。さらに、インフルエンザ菌の生物型の分類に使用される遺伝子群に注目したところ、生物型ごとに分類に関連する遺伝子の完全な欠失が確認された。 現時点では侵襲性に関わる因子を同定するに至っていないが、今後さらに侵襲性感染症症例と非侵襲性感染症症例および健常保菌者より分離したNTHi株の全ゲノム配列データを収集・蓄積し、比較を行うことで、侵襲性に関わる因子の同定につなげていく。
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