研究課題/領域番号 |
17K15779
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 祐子 福島県立医科大学, 医学部, 助手 (60402038)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TTF-1 / RGS5 / RGS4 / 細胞死 / アポトーシス / ネクローシス |
研究実績の概要 |
(1)脱分化して悪性度が高くなったTTF-1非発現甲状腺癌細胞にTTF-1遺伝子を導入することにより癌細胞死が誘導され、また、RGS5遺伝子発現が著明に増加することが示された。RGS5に対するsiRNAを用いてRGS5遺伝子発現を抑制することにより、RGS5遺伝子の効果を検討した。TTF-1遺伝子導入後の生細胞数をCell Counting Kitで測定した。RGS5に対するsiRNAをnegative controlと比較した結果、生細胞数の増加、すなわち癌細胞死誘導の有意な抑制は認めなかった。そのため、癌細胞死誘導はRGS5遺伝子単独の作用ではないと考えられた。 (2)我々が並行して研究を行っているアルギナーゼⅡ(ARG2)遺伝子は、RGS5遺伝子と同様、TTF-1遺伝子導入により発現が著増した遺伝子である。両遺伝子相互の影響の有無を調べるため、RGS5とARG2それぞれのsiRNAを同時に導入し、TTF-1遺伝子導入後の生細胞数の測定、および分化度への影響を調べるためサイログロブリン(TG)遺伝子発現量を測定した。生細胞数およびTg遺伝子発現量において、RGS5単独の場合と比較して明らかな差を認めなかった。 (3)TTF-1遺伝子導入後の遺伝子の網羅的解析において、RGS familyのうちRGS5に次いで増加率の高いのはRGS4であった。これらの遺伝子発現量をreal-time PCRにより測定した結果、RGS5遺伝子は最大520倍、RGS4遺伝子は最大240倍に増加した。 (4)癌細胞死誘導機序を検討した。カスパーゼ活性の測定とAnneine Vの検出により、TTF-1遺伝子導入後にアポトーシスが認められた。また、ネクローシスも検出された。TTF-1遺伝子導入後の甲状腺癌細胞死誘導には、アポトーシスとネクローシスの両方の機序が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでの研究において、TTF-1遺伝子導入により様々な遺伝子発現が変化する。siRNAを用いてRGS5遺伝子を単独に検証した場合、癌細胞死の最終段階を示す生細胞数の測定ではRGS5遺伝子の影響を明らかにすることができなかった。TTF-1遺伝子導入によりRGS5遺伝子は明らかな増加を認めるが、癌細胞死への効果に関しては、他の遺伝子の働きによるものか、もしくは他の要因によりRGS5の作用が相殺されていることが考えられた。癌細胞死に至る過程のいずれかの段階においてRGS5が作用している可能性があり、その機序を詳細に検討する必要性が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)TTF-1遺伝子導入後の甲状腺癌細胞死誘導機序として、アポトーシスとネクローシスの両方の機序が示唆された。癌細胞死そのものへの単独遺伝子の効果を検証することは困難と考えられるため、これらの機序におけるRGS5遺伝子、RGS4遺伝子、その他の遺伝子の影響の有無、およびその作用解析を行う。 (2)分化発生に重要な役割を果たしているヘッジホッグシグナル伝達系が種々の癌細胞において活性化していることが知られている。甲状腺癌細胞においても、ヘッジホッグシグナル系の一つであるsonic hedgehog(shh)シグナル伝達系が活性化しており、甲状腺癌細胞の浸潤を活性化することが報告された。RGS5はGタンパクのGiおよびGqの機能を抑制するが、shhシグナル伝達系はGiを介するため、RGS5がヘッジホッグシグナル伝達を抑制することが報告されている。TTF-1非発現甲状腺癌細胞において、TTF-1遺伝子導入前後で遊走能測定を行う。さらにsiRNAを用いてRGS5の効果を検証し、ヘッジホッグシグナルが甲状腺癌の増殖や転移に関与しているか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が計画より遅れ、購入済みのsiRNAを用いた検討が主体となったため新たな試薬の購入費が少なくなり、また実験動物に関わる経費が発生しなかったことなどが要因である。次年度はRGS4や細胞遊走能の検討を行うため、siRNA関連試薬、アポトーシス検出試薬、細胞遊走測定キット等の購入を計画している。
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