TTF-1発現が消失したヒト甲状腺乳頭癌培養細胞BHP18-21v細胞にアデノウイルスベクターを用いてTTF-1遺伝子を導入した結果、癌細胞死が誘導された。細胞死の機序としてアポトーシスとネクローシスが認められた。一方、real-time PCRによる解析でTTF-1導入後にRGS5、RGS4遺伝子発現が増加した。RGS5、RGS4の機能解析のためsiRNAを導入しTTF-1発現下の両遺伝子発現を抑制することにより、細胞死誘導への影響を検証した。 RGS5-siRNA導入細胞においてはコントロールに比し細胞生存率に統計学的有意差を認めなかった。他方、3種類のRGS4-siRNA導入細胞においては細胞生存率が116~121%に増加、アポトーシスは68~79%、ネクローシス は71~77%に抑制された。 最終年度はRGS5およびRGS4の発現をタンパクレベルで検証するためウェスタンブロット法で変化を調べた。RGS5は複数の抗体によって検出されなかったが、RGS4はTTF-1導入により発現増加が裏付けられ、またsiRNAによりRGS4発現量は約30%に抑制された。 これらの結果から、BHP18-21v細胞へのTTF-1導入によりアポトーシス、ネクローシスを介して細胞死が誘導されること、またRGS4はその過程を促進する働きを有することが示された。しかし、細胞死におけるRGS4単独の影響は部分的な効果に留まった。当初の計画ではTTF-1導入により発現が著増する遺伝子が細胞死誘導に関与していると予想し、甲状腺癌のリスク評価に応用できる可能性を考えていたが、RGS4遺伝子単独でリスク評価を行うことは困難と考えられた。 本研究の成果として、悪性度が高く治療抵抗性である甲状腺癌はTTF-1発現が低下しているが、TTF-1を再発現させることにより癌細胞死を誘導しうることが明らかとなった。
|