研究成果の概要 |
本研究は当初, S100A9を全身に高発現するトランスジェニックラット(Tg-S100A9)を作製し,S100A9の免疫学的機能と潰瘍性大腸炎(UC)発症との因果関係を明らかにすることを目的としていた。しかし, Tg-S100A9の樹立に難航したため, UCにて生体内で特異的な変動を示す因子, 即ちバイオマーカーの発掘を主軸とした研究に移行した。結果, UC患者およびUCモデルラットの生体内で有意に変動する因子を複数同定することが出来た。具体的に, UC患者の血清中S100A8/A9, 補体C3, α2-マクログロブリンはIBDの病態把握マーカーとして優秀と思われた。
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
日本では平成29年12月より, UC患者の便中S100A8/A9測定が保険適応された。一方で, 重症のUCでは激しい下痢と下血を伴い採便が困難である。大腸内視鏡は医師のみが実施可能な検査であり, 時間とコストを要する。CRP測定などの血液検査も特異性に欠けるため, 既存のUC検査法はいずれも弱点があると言わざるを得ない。本研究の成果は, これら種々の問題を解消する新たなUC検査法の構築に繋がる。具体的には, 患者には大腸内視鏡の回数削減に繋がり, 身体的・精神的負担の軽減に寄与する。また, UCの検査法が確立することは, 医師および臨床検査技師の負担や医療過誤の削減にも貢献する。
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