研究課題/領域番号 |
17K15802
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
秋野 祐一 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (00722323)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 呼吸性移動 / 動体追尾照射 / 臓器位置不確定性 |
研究実績の概要 |
本課題では、患者の生理的運動に追従して放射線ビームを動かす動体追尾照射において、照射技術不確かさを考慮した線量計算技術を開発することを目的としている。肺がんや肝臓がんは呼吸性移動するため、通常の照射法ではその分のマージンを加味して照射する必要があり、正常組織の被曝も増える。本研究ではまず、呼吸性移動に追従して放射線を照射できるサイバーナイフ(アキュレイ社)の追尾精度を三次元的に計測するシステムを開発する必要がある。次に、その追尾誤差を考慮して線量計算を行うシステムを構築する必要がある。定位放射線治療では小照射野のビームを多用するため、小照射野ビームデータの測定における不確かさも重要な要素である。 初年度は計測システムの開発と計算システムの構築を並行して行った。まず患者の呼吸波形を解析するためのソフトウェアを開発した。サイバーナイフのLEDマーカーのログファイルから患者の胸壁の動きを抽出し、更に追尾照射を行った際に出力される治療ログファイルから患者内のターゲット位置の時間変化情報を抽出することが可能になった。更にその動き情報を用いて動体ファントムを駆動できるようにソフトウェアを開発した。動体ファントムに設置するレーザー光検出器は試作品が完成し、現在研究を進めている。線量計算システムについても開発を進めており、システムのベースとなるDICOMビューアーの開発が終了した。 また肺がんや肝臓がんの定位放射線治療で非常に重要になる小照射野のビームデータについて、多施設からデータ提供を受けて解析を行った。使用する検出器が測定データに及ぼす影響を明らかにし、国内施設における定位照射における線量計算精度の不確定性を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計測システムの開発については、患者の呼吸波形解析ソフトウェアが完成し、またそのデータを用いて動体ファントムを駆動できるようになった。更に患者に実際に追尾照射を用いて治療したときに出力されるログファイルも解析できる機能を実装した。治療機が予測した腫瘍の3次元位置をデータとして抽出し、その動きを動体ファントムに転送して再現することが可能となった。この機能を用いて腫瘍の呼吸性移動と胸壁のLEDマーカーの運動の間に位相シフトがある場合に追尾照射に及ぼす影響を解析したところ、呼吸波形の予測モデルが乱れ、追尾精度が大きく悪化することが明らかになった。この成果を論文化し、現在投稿中である。ファントムのレーザー検出部については試作機が完成した。メッシュファントムにレーザーを照射すると入射側と射出側に光のスポットが出現することが確認できた。これらをカメラで検出し解析することにより、放射線ビームの3次元的なパスを解析することが可能となる。 線量計算システムはそのベースとなるDICOMビューアーの開発が終了した。治療計画用のCTや、輪郭データ、線量分布データを読み込み、DVHなどの通常のデータ解析は可能となった。追加の解析機能を現在開発中である。 また肺がん、肝臓がんの定位放射線治療で非常に重要となる小照射野のビームデータ測定について、多施設から測定データの提供を受けて解析を行った。使用する検出器の種類によって測定データに明らかな違いが生じ、患者の治療で用いられるビーム量(MU)に直接影響する出力係数にも影響していることが明らかになった。 初年度と次年度の予定を同時に進行しているため当初の予定と進捗は異なるが、投稿中、執筆中の論文もあり、概ね順調に進行していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ファントムは実験可能な状態になったため、今後は検出器側の開発を行う。レーザーの入射側、射出側のビームスポットを検出するために、当初はステレオカメラを想定していたが、空間分解能や時間分解能や歪み補正なども考え、半天球カメラや全天周カメラなども視野に入れて最適な検出器を模索する。カメラのキャリブレーション、歪み補正の方法を開発し、動体ファントムに装着して追尾照射のレーザーを正しく検出できるよう開発を進めていく。方法を確立でき次第、レーザー検出部分のファントムの完成版作成にとりかかる。 線量計算システムでは、治療計画装置MultiPlanの出力する治療計画のXMLファイルを読み込めるようにし、その中のビーム情報からペンシルビーム法で線量計算できるようにする。そのビーム位置に、ファントムとレーザー検出より求めた追尾誤差情報を与えて線量分布への影響を解析できる機能を実装する。また現在開発中である線量パラメータ解析機能を完成させ、ターゲット、リスク臓器の線量分布をより詳細に解析できるよう開発を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目の6月にチェコで開催される国際学会に参加し、研究成果を発表する予定である。その学会参加費と宿泊費の一部は初年度のうちに支払い済みである。次年度使用額は学会に参加して帰国後に残りの旅費と合わせて精算予定である。
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