AD/HD(Attention deficit hyperactivity disorder)は注意の不全を中心とする発達障害であり,行動を抑制できないことによる困難も多い。行動抑制については有機フッ素化合物(PFAS)曝露による悪影響が指摘される。本研究は,事象関連脳電位(ERP; Event-related brain potentials)を用いて,行動抑制機能とPFAS曝露との関連性を検討した。 平成14年に開始した前向きコホート研究「環境と子どもの健康-北海道スタディ」への参加母児のうち,同意が得られた児のERPを測定した。課題は行動抑制を測定するための典型的課題としてGo/No-go課題を用いた。第一刺激として「A」または「+」、第二刺激として英文字をランダム提示し、参加者は「A」と「X」が連続提示された場合にボタン押し反応を行った。同時にAD/HDのスクリーニング検査であるADHD-RSを実施した。 結果として、第二刺激により惹起したGo P3振幅が妊娠日数および父の学歴と関連した。また、抑制機能を反映するNo-go P3およびN2振幅がAD/HD疑い群で減衰した。しかし、これらと胎児期PFAS曝露との間に関連は認められなかった。一方、第一刺激の分析から、予期的期待や運動準備を反映する随伴性陰性変動の振幅が胎児期PFAS曝露濃度に伴って増強した。AD/HD症状のうち抑制機能は妊娠日数等の参加者属性と関連し、予期的期待や運動準備の問題こそがPFAS曝露濃度と関連したと解釈できる。妊娠期の環境改善により、AD/HD症状を軽減・予防できる可能性が示された。
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