研究課題/領域番号 |
17K15834
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉山 大典 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90457052)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 予防医学 / 軽度認知機能障害 / 炎症反応 / 生活習慣病 |
研究実績の概要 |
本研究の対象者は、研究代表者が参画している先端医療振興財団が行っている神戸市一般住民を対象とした神戸研究の都市部住民コホート研究参加者1134人である。平成22~23年度に市の広報など公募情報提供および地域自治会の協力により研究参加者を募り、ベースライン調査を実施した。以後、平成22年度参加者は平成24年度に、平成23年度の参加者は平成25年度にというように2年おきに追跡調査を継続しており、2019年度(平成31年度に相当)は平成23年度参加者の8年目の追跡調査を予定している。 平成29年度は75歳以上の対象者42人に対してThe Montreal Cognitive Assessment (MoCA)による軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)のスクリーニング及び喫煙状況・飲酒状況・サプリメント類の摂取状況・食事摂取状況・身体活動状況・労働状況・睡眠状況・服薬状況等に関する問診やLDLコレステロールなどの動脈硬化性疾患の危険因子を含む生化学検査を行った。 また、データベース研究を行っている大阪府羽曳野市の平成20年度から平成24年度の国保対象者の健診データを用いて、特に男性においては炎症の指標である高感度CRPが健診受診後5年以内という比較的短い期間における新規糖尿病発症と有意な関連を示すことを明らかとし、2019年3月現在論文投稿準備中である。 加えて、Department of Epidemiology, University of Pittsburgh(USA)のSekikawa准教授を訪問し、動脈硬化性疾患の予防に関する日米国際比較について意見を交換した際、動脈硬化性疾患と同様に魚由来のn-3系多価不飽和脂肪酸や大豆食品に含まれるイソフラボンが認知機能に影響を与えている可能性は示唆されるとの有益な情報を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、平成30年度は75歳以上の対象者42人に対してMoCAによるMCIのスクリーニング及び各種問診やLDLコレステロールなどの動脈硬化性疾患の危険因子を含む生化学検査を行うことができた。今年度MoCA等の調査を完遂できた人数(42名)は当初見込んでいた90名よりも少ないものの、平成30年度の調査人数総数が475名で追跡対象となる平成22年度の対象者数を母数とした場合の追跡率が77%と高い数字を維持できていること、また今回の追跡調査でMoCAの対象となっているのが「平成30年度の追跡調査時点で新たに75歳以上となったか、6年目の追跡調査時点で75歳以上であったがMoCAを受けなかった参加者」でかなり限定された対象となっていることを鑑みると、今回の調査人数はおおむね順当と考えられ、6年目追跡調査までのMoCA完遂者や後述する2019年度のMoCA受検予定者と合わせると150名を超える解析対象者が得られることから、認知機能をターゲットとした研究としては十分な解析対象数と思われる。 加えて、関連研究から神戸研究と同様に比較的短期間の追跡調査における新規糖尿病発症炎症マーカーである高感度CRPが有意な関連を示すことを明らかとなり、動脈硬化性疾患のリスクファクターと軽度認知機能障害の関連の一環として、炎症マーカーに対して関連研究と同様の検討を行う必要性があると確認できたこと、またDepartment of Epidemiology, University of Pittsburgh(USA)のSekikawa准教授を訪問した際に本研究で測定予定のn-6系脂肪酸等と認知機能の関連については海外でも注目されているとの有益な知見を得たことから、今年度の研究進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度に引き続き、2019年度(平成31年度相当)も年8回の追跡調査を予定しており、該当する参加者にMoCAや問診、臨床検査を行う。なお、8年目の追跡調査では、70歳以上の対象者に筋肉量(体組成)測定、TUGテスト、握力測定、調査票を用いた栄養調査を行って、①体重減少、②主観的疲労感、③日常生活活動量の減少、④身体能力(歩行速度)の減弱、⑤筋力(握力)から定義されるフレイルの評価も行う予定としており、MoCAは前述のフレイル調査の一部分という側面も併せ持つこととなる。 また、平成28~29年度の調査に相当する第3回追跡調査のデータクリーニングおよびデータセットの整備間完了次第、第3回追跡調査におけるMoCAの結果と7~8年前のベースライン時点における古典的な動脈硬化性疾患のリスクファクター(血圧や血糖値などの古典的血清マーカー、喫煙・飲酒などの生活習慣、血圧脈波による動脈硬化進展度)とMCIの関連、及び前述の古典的なリスクファクターに炎症に関連するバイオマーカー(高感度CRP、LAB、リウマチ因子・抗核抗体、n-6系脂肪酸)を加えた場合のMCI発症予測能の改善について縦断的に検討する。MoCAの結果の扱いについては、臨床的なカットオフ値である26点以上を「健常」もしくは先行研究(Luis CA, et al.Int J Geriatr Psychiatry 2009)を基に23点以上を「健常」とした2通りの目的変数を設定し、それぞれロジスティック回帰もしくはMoCA得点そのものを目的変数とする線形回帰分析を行う。いずれの解析においても、性・年齢を調整して検討する。 加えて、平成29年度に日本公衆衛生学会で発表した一般地域集団におけるMoCAの最適カットオフ値のメタアナリシスによる検討についての論文化を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は平成30年度追跡調査によって得られた保存血清を用いた各種バイオマーカー(高感度CRP、リウマチ因子・抗核抗体、n-6系脂肪酸等)の測定を見送った。その理由は保存血清の残量及び保存検体の取り扱いの関係上、別研究にて測定予定のLOX-1 系変性 LDL指標(sLOX-1、LAB)などと併せて、2019年度(平成31年度相当)に測定する方が望ましいと考えられたためである。
|