個人の所得や社会関係、地域のソーシャル・キャピタルといった社会環境要因は高齢者の日常生活動作(ADL)の低下及び要介護認定の重要な予測要因である。例えば個人の所得や学歴、社会参加、社会的役割といった個人レベルの要因や周囲の人々への信頼や助け合いが強い地域などの地域レベルの要因が、高齢者の要介護認定や身体機能の低下と関連することが報告されている。一方で、こうした社会環境要因がADLや要介護度の望ましい経時的変化をも予測するかは不明である。そこで本研究では社会経済的データが豊富な高齢者パネルデータ(日本老年学的評価研:JAGES)と公的介護保険データを結合し、社会環境要因とADL及び要介護度の時系列変化パターンとの因果関係を検証することを目的としている。 個人及び地域レベルの社会環境要因と要介護度の変化パターンとの関連について、2017年度は閉じこもりとその後の要介護度の変化との関連について、2018-2019年度は、個人の社会的サポートの提供とその後の要介護度の変化との関連について分析した。2020年度は、個人の社会的サポートの提供の変化(2006年と2010年)と、その後の要介護度の変化との関連について分析および論文化をすすめた。 要介護度の変化パターンとの関連については、前期高齢者で友人や近隣への情緒サポート提供は機能低下発症後の経時的な低下の程度を軽減する可能性が示唆された。要介護度の変化との関連については、女性において友人近隣への情緒サポート提供、また男性において友人近隣への手段サポート提供がその後の要介護度を維持・改善しやすい可能性が示唆された。これらの結果から、地域における高齢者の主体的な支えあいを支援する介入が、要介護認定後の悪化予防に有効である可能性が示唆された。
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