私たちはこれまでに超微小粒子の妊娠期曝露により生じる仔マウス(F1世代)の脳神経と雄性生殖に及ぼす影響を解明してきた。特に、雄性生殖への影響は、様々な種類の超微小粒子曝露で共通の所見を認めている。生殖細胞は次世代に遺伝情報をつなぐ唯一の細胞であることから、この点に着目し、本研究課題では、超微小粒子胎仔期曝露が仔(F1世代)の雄性生殖系に及ぼす影響を明らかにすること、さらに、直接曝露を受けていない孫(F2世代)の脳神経機能に及ぼす影響を明らかにすることを目指し、多世代・経世代影響に関する重要な分子マーカーを探索するべく研究に着手した。 F1世代雄マウスの精子性状解析を行ったところ、曝露により精子の細胞死の割合並びに形態異常が多く認められた。形態解析を詳細に進めた結果、曝露群において対照の精子形態と比較すると正常形態率が有意に低下することが明らかとなった。また、曝露により Hook less という対照には見られない特徴的な形態異常を発見できた。しかし、精巣組織病理所見では顕著な変化は認められなかった。一方で、Gene chip を用いて、F2世代雄マウスの大脳皮質と海馬での遺伝子発現変化を解析したところ、海馬では行動異常と神経伝達物質に関連する遺伝子群の発現変化を網羅的に捉えた(GSEA解析により)。また、F2世代海馬の遺伝子発現変動と関連する可能性のあるF1世代精巣マイクロRNA候補を2つ同定した。 この2つの精巣マイクロRNAの役割、特に、次世代影響の観点から健康被害を未然に防ぐ有益なバイオマーカー候補として考えられるが、精子においてそのマイクロRNAの発現様式について今後検証する必要がある。
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