研究課題/領域番号 |
17K15856
|
研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
宮山 貴光 東京女子医科大学, 医学部, 非常勤講師 (20620397)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 銀ナノ粒子 / オートファジー / リソソーム / V-ATPase / LC3B-II / p62/SQSTM1 |
研究実績の概要 |
銀ナノ粒子は、抗ガン剤や抗病原微生物薬など医療応用への開発が最も期待されている金属ナノ粒子である。しかしながら、細胞毒性も強いことから、医療応用への安全性を確立するために、生体内挙動と毒性発現機構を明らかにする試みがなされている。初年度の研究実施計画に従い、リソソームH+輸送体の阻害実験を行った。最初に、リソソームのpH維持に最も寄与が大きいと想定されているH+輸送体V-ATPaseに着目した。ヒト肺胞上皮細胞A549に、銀ナノ粒子とV-ATPase阻害剤であるバフィロマイシンA1をそれぞれ曝露した後、リソソームのpH変化を共焦点レーザー顕微鏡によるライブセルイメージングによって評価した。ここでは、酸性オルガネラ下で蛍光を発するon-target型の蛍光プローブを用いた。その結果、銀ナノ粒子は、リソソームに分布し、蓄積するのみならず、バフィロマイシンA1と同様にリソソームpHを上昇することで毒性に関与する可能性が示唆された。次に、銀ナノ粒子のリソソームpH上昇が、オートファジー・リソソーム系に影響すると仮定し、オートファジーを評価した。オートファジーの代表的なマーカーであるp62/SQSTM1とLC3B-IIをwestern blottingで評価したところ、いずれも銀ナノ粒子曝露により上昇した。同時に、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、オートファゴソームを特異的に標識する蛍光プローブを用いたところ、蛍光が上昇することが分かった。さらに、銀ナノ粒子がオートファジーを阻害するのか誘導するのかを明らかにするため、flux assayを用いてLC3B-IIの挙動を評価したところ、銀ナノ粒子は、オートファジーを誘導するのではなく阻害することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は研究実施計画通りに、リソソームH+輸送体の評価とオートファジーの評価を遂行することができた。リソソームH+輸送体の実験においては、V-ATPaseの特異的阻害剤であるバフィロマイシンA1と銀ナノ粒子の比較実験を優先させたことが、ほかのリソソームH+輸送体の阻害実験の結果を得るよりも早く、リソソームpH変化と銀ナノ粒子の細胞内分布との関連性を詳細に追求することにつながった。さらに、銀ナノ粒子によるオートファジーへの影響についても、先行するナノ粒子研究では、明らかにされることのなかった問題、すなわち、ナノ粒子がオートファジーを阻害しているのか誘導しているのかという矛盾を解決するに至った。特にこの成果は、既存のオートファジーマーカーの定量やオートファゴソームの観察のみならず、flux assayによる評価を組み合わせた多面的な研究方法に取り組んだことで、銀ナノ粒子がオートファジーを誘導するのではなく阻害するという結論に至ることができた。以上の理由から、本研究は研究実施計画に沿って遂行していると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、オートファジーリソソーム系のマスターレギュレーターと位置づけられているTFEBに着目し、研究を遂行する計画である。すなわち、TFEBを細胞内在的に発現するヒト肺胞上皮腺がん細胞A549にTFEBに対する遺伝子改変操作を加えることで、銀ナノ粒子のリソソームpH変化、オートファジー阻害、細胞毒性の発現メカニズムを調べる予定である。TFEBが、リソソームとオートファゴソームの融合過程に必須の因子とも考えられているため、本研究計画では、TFEBプラスミドあるいはTFEB shRNAプラスミドを用いて、それぞれ、定常的にTFEB発現を誘導あるいは抑制することで、銀ナノ粒子の毒性メカニズムを評価していく。特に近年、オートファジー・リソソーム系は細胞死を制御する機構を担っているとも報告されている。あわせて、アポトーシス因子であるカスパーゼ3の発現解析や蛍光標識抗体を用いたフローサイトメーターによる細胞死評価も計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては、研究成果の発表の場を、国際学術誌への投稿・掲載に専念したため、当初想定された国際学会や国内学会への参加・発表による支出がなく、次年度使用額が生じた。次年度研究計画においては、研究遂行と同時並行で、積極的な学会参加・発表活動を行うことも計画している。
|