銀ナノ粒子と肺胞上皮腺がん細胞A549の研究成果から、銀ナノ粒子はリソソームのpH上昇による機能破綻とTFEBの減少を誘導することが分かったため、ヒト由来の他の肺細胞種においても銀ナノ粒子の毒性を検証した。ヒト初代培養肺胞上皮細胞HPSAEpiCとヒト気道上皮細胞BEAS-2Bを用いて60 nmサイズの銀ナノ粒子を0から200 ug Ag/mLの範囲で曝露したところ、用量依存的に細胞毒性が増大した。A549細胞の毒性と比較すると、HPSAEpiC細胞とBEAS-2B細胞の方が、より顕著に毒性を生じた。次に、各細胞種のオートファジー応答を調べるため、p62/SQSTM1とLC3B-IIのタンパク質発現量をwestern blottingで評価したところ、いずれも銀ナノ粒子曝露濃度依存的に増大した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて、オートファゴソーム蛍光標識プローブで評価したところ、オートファゴソームからオートリソソームへの移行が阻害されていることも確かめられた。すなわち、ヒト肺胞上皮腺がん細胞A549で観察されていた銀ナノ粒子による細胞応答は、ヒト初代培養肺胞上皮細胞HPSAEpiCや不死化された肺気道上皮細胞BEAS-2Bにおいても共通に観察された。その一方で、オートファジー応答と細胞毒性は相関するものの、銀ナノ粒子曝露量に対する細胞種ごとの感受性は異なり、特に、がん細胞と正常細胞において明確に違いがみられた。以上のことから、本研究で明らかになった銀ナノ粒子とオートファジーの応答メカニズムは、肺を構成するあらゆる細胞種において共通に保存されているという確かな学術的証明を得られたとともに、がん細胞と正常細胞で銀ナノ粒子の感受性が異なる理由はなぜなのかという新しい学術的問いを見出すこととなった。本研究で見出された新しい問いは次の科研費採択研究で明らかにしていく予定である。
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