本研究は院内感染対策の啓蒙だけでなく,水質管理装置の管理基準の明確化を目的に,期間内に①汚染されたDUWLの人体への影響をin vivoで明らかにし,DUWLを再現した卓上シュミレーターを主軸に②DUWL内部のバイオフィルム形成機序を明らかにし,③種々の洗浄・汚染抑制システムの効果を調べた。 ①免疫不全マウス(BALB-nuマウス)を用いたDUWL汚染水による反復経口投与毒性試験では,マウスの死亡・体重減少などの重篤な有害事象は観察されなかったが,血液検査でのWBCはDUWL投与群において有意に高値を示した。②臨床現場でのDUWL内における細菌叢解析では,土壌および水中に検出される細菌であるBradyrhizobium属が最も多い比率(19.5%)で検出された。次いでCOPDとの関連が示唆されているNovosphingobium属細菌(11.4%)および日和見感染の原因菌としてよく知られるMycobacterium属(9.5%)も検出された。前倒しに進めた③DUWLシミュレータを使用した模擬環境下での有効性検討では,一度生じた汚染は通法の感染対策として実施されているフラッシングのみでの対応は困難であることが示唆された。また中性電解水を洗浄水として使用した場合,1週間で汚染は改善した。 以上の結果から①免疫抑制をかけた患者に対しての非観血的な歯科治療は感染症のリスクを伴う②その原因菌としてMycobacterium属などの日和見感染菌が有力である③DUWLの汚染は化学的な洗浄で対応できる可能性を示唆できる結果を得られた。 今後は,①NOD-scidなどのさらに免疫が抑制された患者を想定した検討,②地域性および使用年数を階層化した大規模な検討③シュミレーターを活用したバイオロジカルアッセイが必要である。しかし,免疫抑制中の患者に対する不用意な歯科治療の危険性は啓蒙できたと考えている。
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