本研究は、ドーパミンシグナリングに対する内因性カンナビノイドシステム(ECS)の影響について検討することを目的としたものであり、今年度は、先行研究で認められたドーパミン神経モデル細胞における内因性カンナビノイド2-AGによるドーパミン分泌抑制の分子機構について検討した。 ドーパミン神経モデル細胞として、引き続き神経成長因子により神経細胞様に分化させたPC12細胞を用いた。これらの細胞に対し、ヘキサナールを作用させることでドーパミン分泌を誘導させた場合における細胞内カルシウム濃度の変化を、カルシウム指示薬であるFluo4を用いて確認した。また、ヘキサナール処理と同時に2-AGにて共処理することで、細胞内カルシウム濃度の変化に対する2-AGの影響について検討した。 ヘキサナール単独でPC12細胞を処理した場合、細胞内カルシウム濃度は最大で22μMとなり、その後漸減した。一方、ヘキサナールと2-AGとで共処理した場合の細胞内カルシウム濃度の最大値は、それぞれ1nM 2-AG共処理で4.0μM、10nM 2-AG共処理で3.0μM、100nM 2-AG共処理で1.5μMとなり、ヘキサナール単独処理の場合に比し、有意に抑制された。 一般に、神経終末におけるドーパミンの分泌は、活動電位の上昇に基づく細胞内カルシウム濃度の上昇により惹起される。またカンナビノイド受容体にはGi/oタンパクが共役しているため、同受容体の活性化に伴い細胞内カルシウム濃度の上昇が抑制される。本研究で認められた結果から、2-AGを介したカンナビノイド受容体の活性化による細胞内カルシウム濃度上昇の抑制機構が、ドーパミン分泌抑制に関与していることが示唆される。
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