研究実績の概要 |
ミトコンドリア機能を反映するGDF-15の臨床的意義を解明するための研究を行っている.これまで,髄液中のGDF-15が中枢神経系に浸潤するリンパ腫で上昇していることを示し,アルツハイマー病などの変性疾患よりも,中枢神経系の悪性腫瘍の診断に有用であることを示した.2019年度は,GDF-15以外に近年認知症や多発性硬化症との関連が報告されているPGRNに注目し,髄液GDF-15とPGRNを測定することで両疾患鑑別の有用性について比較検討した.この結果,髄液中のGDF15は多発性硬化症と中枢神経系リンパ腫の鑑別においてPGRNより有用であることが明らかとなった.2021年度は,多発性硬化症と中枢神経系リンパ腫との鑑別において,先行研究で有用と報告されているIL6, IL10, CXCL13とGDF-15の関係について比較検討した. 多発性硬化症9名,中枢神経系のリンパ腫4名の髄液中GDF-15,IL6,IL10, CXCL13を測定した.GDF-15値は中枢神経系のリンパ腫 292.3±143.8 pg/ml,多発性硬化症 64.9±17.6 pg/mlであり,多発性硬化症と比較し,中枢神経系リンパ腫で高値であった(P= 0.03). 一方,IL6値は中枢神経系のリンパ腫 8.7±6.8 pg/ml,多発性硬化症 2.7±1.2 pg/ml,IL10は中枢神経系のリンパ腫 40.9±50.3 pg/ml,多発性硬化症 0.9±0.3 pg/ml,CXCL13は中枢神経系のリンパ腫 2674.0±5090.6 pg/ml,多発性硬化症 30.4±16.1 pg/mlで有意な差はなかった(それぞれP= 0.09,P= 0.11,P=0.19). 髄液中のGDF-15を測定することは,多発性硬化症と中枢神経系リンパ腫の鑑別において既知のマーカーより有用であることが明らかとなった.
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