研究実績の概要 |
本研究では,既存の診療録データが病歴情報と診断との関係性を解明する上で有用であるのか否かについて調査するとともに,めまい疾患と病歴情報との確率的因果関係をベイジアンネットワークによる予測モデル構築を介して可視化を試みた。 先行研究(Noda K, et al. Int J Gen Med 2011;4:809-14.)の対象145例の診療録テキストから手作業で情報抽出した病歴情報(抽出データ)と,網羅的問診票によって得られた病歴情報(問診票データ)とを比較したところ,前者は後者に比して欠損値が有意に多く,診療録テキストだけでは病歴情報に基づく推論エンジン開発のための有効なデータを供給できない可能性が高いことが分かった。一方,患者自身による網羅的問診票への回答情報は,医師による診療録記載の内容との一致性も比較的高いことから,病歴情報に基づく診断推論エンジン開発の目的に適うデータを供給できる可能性があることが分かった。抽出データならびに問診票データのそれぞれを用いてベイジアンネットワークの構築を行ったところ,前者では欠損値が多く,有用なネットワークを構築することができなかったが,後者では先行研究と同様の予測因子のほか,異なる確率的因果関係を抽出できる可能性が示された。 次いで,172例のめまい患者の診療録データを新たに対象に追加し,めまいの鑑別に有効な問診項目をルールベースで診療録データから自動的に抽出する仕組みを作成した。それによって抽出されたデータ(自動抽出データ)を用いてベイジアンネットワークの構築を行ったが,臨床的に判断して有用なモデルの構築はできなかった。より膨大な症例の診療録テキストデータを投入することによりどのようなモデルが構築できるかについては今後の課題とした。
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