老年病科では患者背景を考慮して抗凝固療法の適応を判断しているが、どのような指標が高齢者において適切なのかはまだ明確ではない。本研究の目的は、超高齢で入院歴があり、要介護状態を多く含むような患者を対象として、老年病科医がどのような患者の背景を考慮して、抗凝固療法の選択をしており、また、その選択の結果起こった、塞栓性梗塞症や大出血、死亡といった予後の検討を行い、現状の抗凝固療法の選択でよいのかを確認することである。東大病院の入院データベースを用いて、2012年から2017年の間に入院歴のある75 歳以上の心房細動の病名を抽出し(175名)、それらの患者のカルテを後ろ向きに調査した。1. 主観的には、出血リスクの高さや転倒リスク、大出血の既往、病態が不良であることが抗凝固薬非投与の上位理由となっていた。2. 客観的には、高齢、やせ、認知機能の低い人、要介護状態の人、バーセル、IADL、バイタリティインデックスの低い人では避けられており、CHADS2VASCの高い人、高血圧の既往、脳梗塞の既往のある人ではより処方されていた。多変量解析では高齢者、痩せ、脳梗塞の既往が抗凝固療法の決定に有意な因子であった。3.後ろ向きに予後調査を行い、梗塞、出血、全死亡のイベントを検討したところ、抗凝固療法の有無と出血には有意な相関は認められなかった。また、抗凝固療法を受けている患者に脳梗塞が有意に多い結果となった。全死亡については、抗凝固療法を受けている患者に生存率が高かった。これらの結果から、副作用としての出血が増えていなかったため、従来老年病科で行われていた、高齢、やせ、認知機能の低い人、要介護状態の人、バーセル、IADL、バイタリティインデックスの低い人といった出血の高リスクを避けて処方を行うという選択は、出血合併症を増やさず、梗塞イベントも増やさないため、適正な判断であると考えられた。
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