リンパ浮腫の治療方法として様々な対症療法が用いられているが有効性が明らかではない。長期的な治療を行うリンパ浮腫では利尿薬は根治療法ではなく副作用発現がある可能性があるため長期間使うことは非常に危険である。そこで体内の水分代謝調節作用を持つ漢方方剤が治療薬となる可能性がある。本研究ではラット腸間膜リンパ管を用いることにより、生理学的・分子生物学的解析を行い、五苓散の新たなリンパ浮腫治療方法の構築およびその作用機序の解明を目的としている。 200gのSDラットの腸間膜リンパ管を単離しガラスピペットに挿入した。五苓散とその構成生薬の各種濃度の凍結乾燥エキスをchamber 内に投与し腸管膜リンパ管の収縮期および拡張期の直径、収縮速度および頻度を測定・解析をした。五苓散は、ラット腸間膜リンパ管の収縮に対する効果は認められなかったが、沢瀉は、30ug/mlの濃度で腸間膜リンパ管収縮速度を有意に低下させた。また、五苓散とその構成生薬である沢瀉をSDラットに1週間経口投与し、単離したリンパ管を用いAQP1、Prox1、LYVE-1、VEGFR3およびVEGFCのmRNA 発現量を解析した。五苓散と沢瀉のProx1、LYVE-1発現量はコントロールに比べ、減少傾向を示した。さらに、VEGFR3 、VEGFRC 、VE-cadherin、Prox1抗体を用いタンパク質発現量を測定した結果、五苓散の各種タンパク質発現量はコントロールに比べて増加したが、有意な差は認められなかった。以上の結果より、五苓散と沢瀉のラット腸間膜リンパ管収縮速度を低下はリンパ管形成やリンパ管新生には関与しないため、リンパ管の機能不全が考えられる。リンパ浮腫に用いたれる五苓散の浮腫改善作用はリンパ管収縮運動や内皮細胞間の接着には影響を与えず、腎機能を介して浮腫を改善する可能性が示唆された。
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