慢性疲労症候群(CFS)は慢性的な疲労を呈する客観的診断法や治療法が確立していない症候群である。当施設では漢方治療と心理療法を用いた治療の有効性を報告してきた。基礎研究において筋の異常緊張がCFS発症に大きく関与するという報告があり、本研究においては従来の治療に加えて筋の異常緊張に着目したフィジカルアセスメントと筋緊張の改善を目標にした運動療法を行い、CFSの新たな治療法の確立とともに、CFSの病態生理の解明および客観的な診断指標の探索を目指してきた。研究当初は新規診断患者に加えて当院で漢方および心理療法を行ってきた患者も対象に研究を行う予定だったが、長期フォロー患者においては精神疾患の併発や廃用に伴う二次的な疲労感の影響が大きく研究対象として妥当ではないと考えられたため、研究期間中に新規診断患者に対象を限定することになった。さらに途中、COVID-19の流行期となり新規診断患者が激減したため、主たる研究目標である運動療法の効果判定という点では十分な症例の集積ができていない。一方、フィジカルアセスメントの一つとして測定したデジタル角度計を用いた上肢位置覚の測定において、CFS患者群は他疾患あるいは健常者群と比較して位置覚が有意に低下していることが示唆された。これは動物実験において示唆された固有感覚ニューロンの異常をヒトにおいても確認できている可能性を意味するだけではなく、ベッドサイドでも測定可能なCFSの診断における客観的指標である可能性も示唆する。今後、さらにCFS患者での再現性を確認するとともに、健常者・他疾患患者でのデータの集積を行うことでカットオフ値の設定を進めていきたい。
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