過敏性腸症候群(IBS)は、腹部不快感や腹痛を主症状とした内臓知覚異常を伴う下痢や便秘またはその混合の便通異常が慢性的に持続する病態であり、本邦でも罹患患者は全人口の10~15%と極めて高率である。健常人と比べ糞便中の腸内細菌叢構成の違いが指摘されているが、腸管粘膜上皮により近い上皮表面のムチン層内の細菌叢の違いとその病態への影響については不明な点が多い。当研究の目的は患者の腸管粘膜上皮表面の細菌叢に疾患特有性があるかを明らかにすることである。 これまでの研究で、粘膜上皮表面のムチン層に存在する細菌叢の採取方法の条件検討を行い、次世代シーケンサーによって、粘膜上皮表面のムチン層の菌叢の標準的解析方法を確立した。この解析方法を用い、IBS患者と非IBS患者で、粘膜表層細菌叢の解析を行った。一個人の大腸粘膜上皮表面のムチン層内の細菌叢の構成が糞便中の細菌叢構成と大きく異なり、さらに健常人とIBSで比較すると糞便よりも粘膜上皮表面のムチン層内の細菌叢の構成の違いがより大きいことを見出した。IBS患者の腸管粘膜表層の細菌叢は健常人と比較しα多様性が低いことを明らかとした。さらにIBSの同一患者で、内視鏡検査で経時的に採取した粘液関連細菌の解析を行った。経時的な菌叢構成の変化は、糞便中の細菌叢構成の変化と同様に極めてその変動が少ないことを明らかとした。 IBS患者における粘膜表層の細菌叢の基礎的な知見を明らかとした。粘膜上皮表面の細菌叢の違いがIBS診断や病勢のバイオマーカーとなる可能性や、腸内細菌を介したIBS発病メカニズム研究への進展が見込まる。
|