高齢者介護の現場では,介護者による「普段と比べて元気がない/様子が異なる」という印象や気付きが医療受診の糸口となり,高齢者に潜在する疾病が発見されることがある.このような「高齢者への日常的な介護提供者による主観的な印象や評価」を Caregiver daily impression(CDI)と定義した.CDIとは“元気がない”という違和感(日常との変化)を複合的に言語化した指標である. 本研究は,CDIと身体所見とを組み合わせて,高齢者施設の新たな救急受診トリアージ手法を開発することを上位目的として始まった.CDIと身体所見を組み合わせ,高齢者施設からの医療受診の必要性を具体的な数値(スコアやパーセント)で表現することをめざす.最終目標は,コンピュータが医療受診の必要性を自動的に出力してくれるようなシステムの開発である.現段階では,その基盤となるデータを取得し,より精緻に検討を重ねる必要がある.本研究では,CDIに関わるデータを効率的かつ的確に収集できるシステムの構築し,蓄積されたデータを解析して基礎資料を提示することを下位目的とした. 研究期間中,現場の介護スタッフが容易に利用できるCDIチェックリストを作成し,高齢者施設内に設置された介護記録管理システムに試験導入した.介護スタッフがこれまで言葉にしづらかった印象や気付きの言語化を狙い,日常業務の一環として利用したチェックリストの情報を的確に収集できる仕組みを構築した.蓄積されたデータを解析したところ,CDIは肺炎発症の数日前から察知される一方で,尿路感染症・胆道感染症や転倒は突発的に発症し,先行するCDIが察知されにくいことが明らかになった.肺炎は高齢者施設内で発症する急性感染症の中で最も頻度が高く,CDIはその早期診断に寄与し得ることが示唆された.さらに,CDIは施設内での死亡日を予測できる可能性も示唆された.
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