近年のがん治療で注目されている抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬は腫瘍免疫の抑制状態を解除することで優れた治療効果を挙げている反面、限定的な効果と高額な薬価という問題をはらんでいる。我々は新たながん免疫療法の標的として腫瘍免疫の抑制に大きく寄与する骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)に着目し、漢方薬の十全大補湯にこのMDSCを減少させる作用を見出してきた。そこで本研究は、MDSC抑制作用をもつ十全大補湯と抗PD-1抗体の併用が、効果的かつコストパフォーマンスに優れた新たながん免疫療法になるのではないかという仮説のもと、その実効性を検証することを目的として実施した。 現在までに、十全大補湯のMDSC減少作用の特性および機序の解明に取り組み、本方剤がMDSCの細胞死や他の免疫細胞への分化(脱分化)には影響せず、未熟骨髄細胞からMDSCへの分化を直接抑制することを明らかにしている。さらに、その作用機序としてはMDSC分化に重要な因子であるSTAT3の活性化(リン酸化)抑制が関与することも見出した。 一方、十全大補湯と抗 PD-1抗体の併用効果を評価するために担がんモデルマウスの適正化を行い、乳がん細胞株4T1細胞をBALB/cマウスに投与し作製した肺転移モデルにおいて、十全大補湯および実験的MDSC阻害薬である抗Gr-1抗体が同様に腫瘍成長抑制作用を示すことを確認した。本モデルを用いて、十全大補湯の抗腫瘍効果にMDSC分化抑制作用が寄与するか否かや抗PD-1抗体との併用効果(相加的または相乗的作用)を検討する予定であったが、平成30年4月に研究機関を異動(東京理科大学薬学部から山口東京理科大学薬学部へ)し、異動先での雇用が科研費からの支出となり、科研費応募資格を喪失してしまうため、本研究を廃止することとなった。
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