研究課題
本邦では肥満、メタボリックシンドロームの増加を背景とした大腸癌が増加してきており、社会的な問題となっています。我々は、この肥満に関連した大腸癌の発癌機序を解明する研究を続けており、これにより本病態を抑制するために有効な新しい予防や治療を創出したいと考えています。近年、腸内細菌が生体のエネルギーの恒常性(ホメオスタシス)に深く関与していて、肥満やその中核的な病態であるとされるインスリン抵抗性を引き起こすことが報告されています。そこで本研究では、肥満に関連した大腸発がんに関わる腸内細菌叢およびその機能を同定し、代謝変化や大腸上皮の遺伝子変化と包括的に解析し、その発生機序を解明することを目的としました。肥満関連大腸がん患者の腸内細菌叢を解析したところ、非肥満者に比べ腸内細菌叢の多様性に変化があり、特にE. faecalisと呼ばれる腸内細菌の減少が特徴的であることが分かりました。またこの細菌の量と血液中のLDL濃度(悪玉コレステロール)が相関していることも分かりました。パラフィン包埋組織から、一細胞を切り出し、シングルセルレベルの網羅的トランスクリプトーム解析を試みました。一細胞からの微量核酸の抽出や、その増幅を行い次世代シーケンサー用のライブラリー作成を試みましたが、未だこれには技術的困難さがあることが分かりました。そのため大腸腺腫(前がん病変、大腸ポリープ)および大腸癌の組織を用いて、癌に関連するとされる409個の遺伝子バリアント解析を行いました。その結果、肥満者の大腸腺腫および大腸癌に特徴的な遺伝子変化を複数同定することができました。今後はこれらの機能解析も含めた更なる包括的な解析を行い、肥満に関連した大腸発がんの発生機序を解き明かすことで、本病態の征圧に向けた新しい標的の探索を続けたいと考えています。
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Digestion
巻: - ページ: 1~8
10.1159/000501477