研究課題/領域番号 |
17K15923
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸川 孝弘 東京大学, 医学部附属病院, 登録研究員 (00724171)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 反復配列RNA / トランスジェニックマウス / 膵癌 |
研究実績の概要 |
我々は、膵発癌過程の早期から異常発現するノンコ―ディング反復配列RNAの分子生物学的意義について、マウスの細胞株を用いた検討を行い、反復配列RNAが遺伝子修復タンパク質であるYBX1と結合することで、酸化ストレスによるDNAダメージへの応答性を低下させること、これによってランダムな突然変異の蓄積をもたらし結果的に悪性形質転換を誘導することを見出した。本研究ではこの成果を生体内でも確認するために、反復配列RNAを全身性に発現するトランスジェニックマウスを作製し、その表現型を観察した。その結果、反復配列RNA発現マウスでは野生型と比較して、セルレインや高脂肪食投与によって膵臓に炎症刺激を与えた際のDNAダメージが遷延すること、また細胞での結果と同様にYBX1の核内移行が阻害されていることを確認した。さらにミトコンドリアDNAの変異蓄積を反映するミトコンドリアDNAコピー数も反復配列RNAマウスにおいて炎症刺激後に有意に低下していた。さらに膵特異的Kras変異マウスと反復配列RNA発現マウスを交配させることによって、腫瘍形成能の変化について検証を行った。Kras変異によって発生する膵良性腫瘍(PanIN)の形成時期が反復配列RNAを追加発現させることでKras変異単独マウスよりも早まることが分かった。これらの結果から、in vivoの系においても反復配列RNAの発現がストレス刺激時のYBX1の核内移行を阻害し、DNAダメージを蓄積させること、またランダムな突然変異の蓄積が膵腫瘍化を促進している可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスジェニックマウスの作成に成功し、その表現型を観察したが、非刺激状態では野生型との有意な差が得られなかった。しかしセルレインや高脂肪食を使用して膵臓に急性炎症を惹起することで酸化ストレスを与えた際のYBX1の挙動やDNAダメージの蓄積を観察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
膵特異的Kras変異マウスは良性腫瘍を形成するものの、長期に飼育しても浸潤や転移などの悪性腫瘍を示唆する表現型には至らない。したがって反復配列RNAとの交配によって、悪性化を誘導できるかどうか、長期に飼育して組織像を比較し評価を行うとともに、反復配列RNA発現が惹起される分子機序についても解明を進め、発癌予防の観点からその制御法の開発に努める。
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