研究課題/領域番号 |
17K15927
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 裕人 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (50645322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胃癌 / メタプラジア / マウスモデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、申請者らが作成した胃表層上皮特異的に遺伝子改変を起こすTff1-Creマウスを用いて、胃癌および胃化生性変化(メタプラジア)モデルを開発し、胃癌の新規治療法や新たな発癌予防法を探索することである。 本年度は、Tff1-Creマウスを用いたメタプラジアモデルの開発と解析を行った。Tff1-Cre;LSL-KrasG12Dマウスでは、萎縮・過形成・メタプラジアを生じることを確かめた。生後1年までの解析では、発癌にはいたらなかった。免疫組織学化学的な解析により、既報の変異型Krasマウスによるメタプラジアモデルとほぼ同様の特徴を持つことを明らかにした。Tff1-Cre;LSL-KrasG12Dマウスの胃体部から培養したオルガノイドは、萎縮・過形成などの特徴が分子マーカーから明らかとなり、オルガノイドをメタプラジアの解析に活用できる可能性が示唆された。次いで、Tff1-Cre;Pten flox/floxマウスによる新たなメタプラジアモデルを確立した。PI3K-AKTシグナルの活性化による胃のメタプラジアモデルはこれまでに報告がなかった。免疫組織化学的な解析により、Tff1-Cre;Pten flox/floxマウスのメタプラジアも、分子マーカーからはTff1-Cre;LSL-KrasG12Dマウスと類似しており、そのメカニズムの一つとして、どちらの病態にもERKの活性化が関わっている可能性が示唆された。 並行して、胃癌モデルを開発すべく、Tff1-Creマウスと種々の遺伝子改変マウスの交配を継続しているが、これまでのところ発癌に至る組み合わせが見つかっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
メタプラジアの解析については複数のモデルを確立し、免疫組織化学的な解析によりその特徴をある程度明らかにすることができた。また、メタプラジアの発生については、近年は胃の幹細胞や主細胞が起源であるとする報告が相次いでいるが、表層上皮細胞およびその前駆細胞における遺伝子改変にでも同様にメタプラジアを生じており、本研究のユニークな点の一つであると考える。 胃癌モデルとなりうると予想していた遺伝子改変の組み合わせで発癌に至らず、胃癌モデルが確立できていない。
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今後の研究の推進方策 |
メタプラジアについての解析は、本年度の内容をまとめて論文として投稿予定である。並行して、他の遺伝子の改変によるメタプラジアについても、解析を継続中である。 胃癌モデルについては、Tff1-Creマウスによる遺伝子発現が構成的であるため、改変する遺伝子の組み合わせによっては胎仔期および生後早期を生き延びることができないこともあり、使いやすい胃癌モデルを得るのに難渋している。現在、これまでに交配に使用していた、LSL-KrasG12Dマウス、Pten flox/floxマウス、Tgfbr2 flox/floxマウス、Cdh1 flox/floxマウス、に加えて、変異型p53のトランスジェニックマウスを用いることで、発癌を促進することを試みている。 なお、研究開始時に計画していたApc flox/floxマウスについては、Tff1-Creによる遺伝子改変が一部十二指腸や小腸でも生じることが明らかとなったため、掛け合わせを中止した(小腸でのApc欠失では、小腸の腫瘍により早期に致命的となる可能性が高いため)。
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