研究課題
大腸癌は遺伝子異常のみならず、肥満・生活習慣病といった環境的素因に起因する悪性疾患と考えられる。これらの相互作用を検証するため、APCヘテロ変異を有するC57BL/6J-ApcMin/+(Min/+)マウスと、レプチン受容体変異により肥満および2型糖尿病を呈するC57BLKS/J-+Leprdb/+Leprdb(db/db)マウスを交配し、新規の大腸発癌モデルである「db/db-Min/+マウス」を作製した。このマウスの解析により、対照群と比較して肥満・高血糖・高インスリン血症・脂質異常症を発症すること、および腸管における腺腫発生個数が有意に増加することを明らかにした。さらに、大腸粘膜の解析によってIGF/IGF-1R経路の過剰活性化が示唆された。従ってこのマウスは、APC遺伝子異常と肥満・インスリン抵抗性・脂質異常症を併発する、ヒト大腸発癌、特にメタボリック症候群を基盤病態とした大腸発癌を反映した動物モデルであると考えられた。このマウスを用いて、治療候補薬剤の1つであるメトホルミンを投与する実験を行ったところ、腸管腫瘍の発生数が減少した。糖尿病治療薬メトホルミンは、AMPKを介した抗腫瘍作用が報告されているため、この実験においては、インスリン抵抗性の改善を介した間接的な作用とともに直接的な腫瘍抑制効果を示唆していると考えられた。また、緑茶カテキン投与によっても同マウスの腸管腫瘍発生が抑制されることが示されている。さらに、db/dbマウスを用いた大腸発癌実験においても、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬トホグリフロジンが、高血糖の是正や腸管粘膜での慢性炎症と増殖シグナルの制御によって、大腸前癌病変の発生を抑制することが確認された。一般臨床で使用されている糖尿病治療薬が、肥満を基盤とする病態を改善することで、肥満症や糖尿病患者の大腸発癌を予防する可能性が示された。
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