研究課題/領域番号 |
17K15953
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
稲嶺 達夫 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (00549628)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / IgA / 非アルコール性脂肪性肝疾患 / 非アルコール性脂肪肝炎 |
研究実績の概要 |
昨年度に明らかになった糞中分泌型イムノグロブリンA (SIgA) 量が生産施設間で異なることを踏まえて,糞中SIgA量が高い施設で生産されたC57BL/6NおよびBALB/cマウスを実験に用いた。 非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) および非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) において腸管の分泌型イムノグロブリンが変化するのかを明らかにするために,C57BL/6Nマウスに高脂肪+高フルクトース食を20週間与え,血中および糞中イムノグロブリン量をELISA法により測定した。結果,C57BL/6NマウスではNAFLD/NASHモデルにおいて,血中IgAの低下と糞中IgAの増加が認められた。一方,BALB/cマウスのNAFLD/NASHモデルでは血中IgAおよび糞中IgA量に変化は認められなかった。また,両系統のマウスにおいて糞中IgM量に変化は見られなかったことから,上記のNAFLD/NASHモデルにおけるイムノグロブリンの変化はIgA特異的なものであることが示唆された。 また,分泌型イムノグロブリンがNAFLD/NASHの病態に与える影響を明らかにするためにIgAおよびIgMの分泌を担うトランスポーターであるpIgRを欠損したマウスをCRISPR-Cas9によるゲノム編集技術で昨年度に作出した。系統間および生産施設間で異なるSIgAレベルの影響を考慮し,C57BL/6NおよびBALB/c両系統でpIgR欠損マウスを作出し,糞中SIgAレベルが高い生産施設由来のC57BL/6NマウスおよびBALB/cマウスを用いて戻し交配を2世代行い,実験に用いるマウスの系統を整備した。同時に,pIgRホモ欠損マウスにおいて糞中IgAが検出されないことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初計画ではC57BL/6系統のpIgR欠損マウスを米国より輸入し利用する予定であったが,C57BL/6およびBALB/cマウスの系統間でのSIgAの働きの差が今後の研究結果に影響する可能性が示唆されたため,両系統のpIgR欠損マウスをゲノム編集技術により新たに作出した。そのため,組換えマウスの戻し交配およびコロニー拡大に時間を要した。現在,C57BL/6NおよびBALB/c両系統のマウスにおいて実験用マウス生産体制が整い,順次実験を開始している。 また,C57BL/6NおよびBALB/cマウスに高脂肪+高フルクトース食を与え,腸管分泌型イムノグロブリンの変化を観察した。当初計画では,コリン欠乏アミノ酸食誘導型NAFLD/NASHモデルでも実験を行う予定であったが,当初計画と異なり2系統のマウスを使用しているため,高脂肪+高フルクトース食誘導型NAFLD/NASHモデルにおけるpIgR欠損の影響をみる研究を先行させ,その結果を踏まえた上で,コリン欠乏アミノ酸食誘導型NAFLD/NASHモデルでの実験を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに,C57BL/6N系およびBALB/c系マウスの分泌型イムノグロブリントランスポーター欠損マウス(pIgR欠損マウス)の生産体制が整ったため,今後は両系統のpIgR欠損マウスを用いて,高脂肪+高フルクトース食誘導型NAFLD/NASHモデルにおける腸管イムノグロブリンの働きを明らかにする。また,上記の高脂肪+高フルクトース食モデルの結果を踏まえた上で,異なるNAFLD/NASH誘導メカニズムを有するコリン欠乏アミノ酸食誘導型NAFLD/NASHモデルでの実験を検討する。 当初計画ではpIgR欠損マウスに加えてIgA欠損マウスを用いる予定であったが,血中IgAの有無が異なるものの,どちらも腸管分泌型IgAを欠損するマウスであることから,IgAの腸管での働きに焦点を当て,今後はpIgR欠損マウスでの研究にリソースを集中する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスの生産施設間で腸管IgA量が異なることが明らかとなり,腸管IgA量のばらつきをコントロールする必要が生じた。そのため,ばらつきの把握と実験に適した生産施設の選定に時間を要した。また,pIgR遺伝子欠損マウスの生産体制の整備に想定していたより時間を要したため,研究に遅れが生じている。 今後はpIgR欠損マウスを用いた実験の飼育費,特殊飼料や表現型解析に要する試薬の購入費として予算を使用する。
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