研究課題
本研究は、腸炎の新たな分子機構の解明を目的とする。SLPIの欠損マウスにDSS腸炎を誘導した所、実験結果が安定せず、再現性を得るためにC57BL/6系統への戻し交配を進めている。本年度では戻し交配を4回進める事ができた。SLPIの発現機構を解析するために、腸管特異的TRAF6欠損マウス(Villin-Cre:TRAF6flox/floxマウス)の体外受精を3度施行し、産仔が得られた。現在交配を進めて個体数を増やしている。マウスの大腸癌細胞株を用いた予備実験によって、SLPIを誘導するためにはLPSなどの細菌の構成成分の刺激が必要である事が明らかになった。そこで、マウスに抗生物質を投与し、腸内細菌叢を変化させ、SLPIが変動するか検討したが、変化は認められなかった。しかし、偶然にも、抗生物質を投与する事によって、マウスの便潜血が陽性になり、盲腸内容物が増加する事を見出した。更に盲腸内の代謝産物をガスクロマトグラフ質量分析計で測定した所、グルタミン酸や酪酸といった腸管上皮のエネルギー源が減少していた。更に大腸上皮のki-67陽性細胞数が減少しており、細胞増殖が低下している事が判明した。抗生物質による腸内細菌叢の変化をメタゲノム解析した所、酪酸を始めとした短鎖脂肪酸を産生するClostridialesが減少しており、これらの菌が減少する事によって酪酸を始めとした腸管エネルギー物質の産生が低下している事が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
SLPI欠損マウスは予定通り個体数を増やしてDSS腸炎実験を複数回行ったが、結果が安定せず、戻し交配が必要であると考えられた。腸管特異的TRAF6欠損マウスは、順調に個体数が増えている。マウスの大腸癌細胞株を用いた予備実験によって、SLPIを誘導するためにはLPSなどの細菌の構成成分の刺激が必要である事が明らかになった。そこで、マウスに抗生物質を投与し、腸内細菌叢を変化させ、SLPIが変動するか検討したが、変化は認められなかった。しかし、偶然にも、抗生物質を投与する事によって、マウスの便潜血が陽性になり、盲腸内容物が増加する事を見出した。更に盲腸内の代謝産物をガスクロマトグラフ質量分析計で測定した所、グルタミン酸や酪酸といった腸管上皮のエネルギー源が減少していた。更に大腸上皮のki-67陽性細胞数が減少しており、細胞増殖が低下している事が判明した。抗生物質による腸内細菌叢の変化をメタゲノム解析した所、酪酸を始めとした短鎖脂肪酸を産生するClostridialesが減少しており、これらの菌が減少する事によって酪酸を始めとした腸管エネルギー物質の産生が低下している事が示唆された。現在論文投稿中である。
先に述べたように、腸管特異的TRAF6欠損マウスは作成が終了しており、次年度において、SLPIの発現を解析する予定である。SLPI欠損マウスは現在4世代まで戻し交配が進んでおり、6世代以上程度まで戻し交配を行う予定である。戻し交配が終了した際には再びDSS腸炎を誘導する。抗生物質と腸上皮の増殖能の関連については、現在論文投稿中であり、必要に応じて追加実験を行う。
抗生物質と腸粘膜の増殖能については予定を上回るペースで実験が進んでおり、論文投稿段階にあるためやや使用額が少なくなった。SLPIの実験については現在も継続しており、消耗品や実験動物飼育管理費として使用する予定である。
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