研究実績の概要 |
NASHおよびこれを背景とした肝細胞癌患者が増加している.しかし成人の2-4割が罹患している脂肪肝患者からNASH患者を簡潔に鑑別する方法がなく,標準的治療法も確立していない.申請者らはこれまでにNASHの半数以上の症例で肝鉄過剰沈着が生じており,これにより発生する変異原性塩基8-OHdG量が非脂肪肝,単純性脂肪肝,NASHの順に肝内に有意に増加していること,肝鉄過剰沈着がIron regulatory protein 1(IRP1)活性の亢進を介した消化管の鉄トランスポーター発現増加に より惹起されることを明らかにしてきた(Hepatology,2015).本研究は肝鉄過剰沈着を伴うNASHにおけるIRP1活性化誘発因子の解明を含めた鉄代謝異常の詳細な機序を明らかとし,それらを焦点とした新たなバイオマーカーと治療方法の開発を目的とした. In vitro実験として小腸上皮細胞の形態・機能を有するmonolayersを形成するため,Caco-2/TC7細胞を多孔質フィルター上で培養し,DMT1 mRNA発現量やIRP活性などを測定した. In vivo実験として,C57BL/6J野生型マウスを用いて脂肪肝炎モデルを作製した.高カロリー食であるSurwit diet(リサーチダイエット社)で飼育し,鉄過剰群では鉄分450mg/kg diet を添加した.6週齢より組織採取までの間,前述の飼料を継続投与した.体重測定は適宜行い,通常飼料群との比較では明らかな体重増加を認めた.投与開始より3,6,9,12ヶ月後のマウスを安楽死させ,採血検査にて各種生化学データ(AST,ALT,Fe等)を得ることができた.肝組織を採取し固定標本を作製の後,肝障害,線維化,鉄沈着,8-OHdG抗体を用いた酸化ストレスの程度および発癌について解析した.
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