研究実績の概要 |
鋸歯状経路(serrated pathway)と呼ばれる新たな発がん経路が注目されている。しかしながら鋸歯状腺腫(Traditional serrated adenoma, TSA)や、腺腫から鋸歯状変化を来す病変(adenoma with serration)の臨床病理学的特徴にはいまだ不明な点が多い。本研究ではゲノム・エピゲノム解析と臨床的研究を融合することで、鋸歯状経路の分子異常とそれを反映する臨床病理学的特徴・内視鏡所見を明らかにし、鋸歯状病変の内視鏡診断に応用することを目的とした。 鋸歯状病変のうちTSA特異的にメチル化する遺伝子としてSMOC1を同定した。多数検体を対象とした解析の結果、TSAのSMOC1メチル化レベルはSSA/Pと比較して有意に高く(P<0.01)、癌化を伴うTSAにおいてはさらに上昇する傾向にあった。またSMOC1のメチル化レベルはKRAS変異およびCIMP-lowと正の相関を示した。RT-PCRおよびIHC解析の結果、正常組織およびSSA/Pと比較してTSAで有意なSMOC1発現低下が認められた(P<0.001)。SMOC1はTSAにおいて高頻度にメチル化しており、TSAの発育進展に関与する可能性が示唆された。またSMOC1発現は、鑑別困難な鋸歯状病変の診断に有用であると考えられた。 内視鏡、病理、分子異常を統合解析した結果、TSAに特徴的な内視鏡所見として伸びたⅡ型ピットパターン(Ⅱ-L pit)とⅣ型ピットが混在していることを明らかとした。Ⅱ-L +Ⅳ pitを呈する病変はTSA, KRAS変異、CIMP-Low, SMOC1高度メチル化、Ⅱ +Ⅳ pitはTSA, BRAF変異, SMOC1中等度メチル化, CIMP-Low-Negative, Ⅱ-open +Ⅳ pitはSSA/P with cytological dysplasia, BRAF変異, CIMP-High, SMOC1非メチル化と相関することを明らかとした。
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