VEGF-Bは脂肪酸トランスポーターの発現を誘導し、細胞内への脂肪酸取り込みを促進することが知られている。そのため、VEGF-B は異所性脂肪蓄積に対する新たな治療標的として有望視されている。本研究は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)におけるVEGF-Bの病態生理学的機能を明らかにすることを目的とした。前年度までに、既存の胃潰瘍・十二指腸潰瘍治療薬であるランソプラゾールを肝がん細胞株HepG2およびHep3Bに処理すると、VEGF-B発現量が減少することを見出した。また、VEGF-Bの類似機能を持つ複数の脂肪酸トランスポーターの発現量も減少していた。平成30年度は、ランソプラゾールが肝細胞の脂肪蓄積に対する効果を検証した。HepG2およびHep3Bにランソプラゾールを処理した時の細胞内への蛍光標識脂肪酸の取り込み量を測定したが、脂肪酸の取り込みには変化がみられず、一方でLDLコレステロールの取り込みが増加していた。実際にランソプラゾールによってコレステロール代謝を制御する転写因子LXRが活性化されており、LXR下流遺伝子群の発現量が増加していることを見出した。しかし、ランソプラゾールによるLXR活性化とVEGF-B抑制効果との関連は研究期間内には明らかにできなかった。近年、LXRはコレステロール代謝調節のほか、炎症抑制など様々な機能を有することが報告されており、今後は肝細胞の脂肪酸取り込みだけでなく、脂質全体の動態と炎症応答因子の発現変動を解析する必要がある。
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