研究課題
過敏性腸症候群患者10名を対象とした検討により、ドナー便に含まれるBifidobacterium属細菌の量が糞便微生物移植(FMT)の有効性に影響を与えることが示された(Mizuno S. Digestion. 2017)。さらに、これらの患者を含む機能性消化管障害患者17名を対象とした検討により、消化器症状の改善の有無に関わらずFMTが患者の精神神経症状を改善させることも明らかにした(Kurokawa S. J Affect Disord. 2018)。また、潰瘍性大腸炎(UC)患者を対象とした検討では、当院当科外来通院中の98名の寛解期のUC患者から糞便の提供を受け、現在メタゲノム解析を進めている。さらに、対象患者の1年間の臨床経過を追うことにより、最終的に再燃の予測因子になりうる腸内細菌の同定を目指している。一方、寛解期UC患者を対象としたFMTの寛解維持効果の検討は、現在計画立案中であるが、合併症発生時の対応や倫理的な問題の解決などに向けて、課題の洗い出しと解決策の検討作業を継続している。さらに、腸内細菌叢を基軸とした臓器間ネットワーク解析のために、ストレス負荷モデルの準備を進めている。強制水泳モデルの利用を検討していたが、当科で経験の多い皮膚炎マウスモデルをまずは採用することとした。人為的に皮膚炎を惹起することにより疼痛刺激などを生じさせ、それに伴う腸内細菌叢の変化や、抗菌薬投与やFMTを行うことによって腸内細菌叢を変化させた際の皮膚炎の改善効果などを、免疫学的見地・細菌学的見地の両面から検討している。
2: おおむね順調に進展している
機能性消化管障害の患者を対象とした腸内細菌叢の解析において精神神経症状と腸内細菌叢の変容について解析結果の発表に至ったことは、当初の想定以上の成果と言える。さらに、潰瘍性大腸炎患者を対象とした検討では、当初目標の100名にはわずかに及ばなかったが、98名の寛解期の患者を対象に糞便回収を行うことができており、おおむね当初の目標通りの経過と言える。現在は、これらの患者の臨床的な再燃の評価と腸内細菌叢のメタゲノム解析を進め、マウスモデルについても当初のモデルとは異なるモデルを用いた検討にはなるが、臓器相関の検討が順調に開始されているものと考える。
UC患者を対象としたFMTの寛解維持効果の検討は、近年の倫理規範の変化やUCの再燃率の低さを勘案すると、実現可能性はやや低下していると考えざるを得ない。まずは、UC患者の再燃予測因子としての腸内細菌叢解析の可能性について、現在進行しているメタゲノム解析結果を踏まえて検討する。さらに、皮膚炎によるストレス負荷モデルの解析では、腸内細菌叢の著しい変化を認める結果が出されつつあるため、免疫学的機序の解析も含めて検討を進める。
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Journal of Affective Disorders
巻: 235 ページ: 506-512
10.1016/j.jad.2018.04.038.