メタゲノム解析技術の発達により、腸内細菌叢と様々な疾患の病態の関係性が明らかになり、腸内細菌叢の再構成が病態改善に寄与することが期待されている。糞便微生物移植法は細菌叢改変の可能性の高い手法として注目されているが、適応疾患・投与法の最適化は不十分で潜在的なリスクも含む。本研究では、洗練された効率的な手法を構築することによって、新規薬剤に比して安価で効率的な治療法開発につなげることを目指した。 まず、機能性消化管疾患に対して糞便微生物移植を施行し、精神科学的評価と16S rRNAによる腸内細菌叢解析によって、糞便微生物移植が抑うつ症状の改善につながる可能性があることを明らかにした(J Affect Disord. 2018)。また、臨床的寛解の潰瘍性大腸炎患者の腸内細菌叢解析と並行して、1年間の再燃の有無を前向きに観察することで、再燃群と寛解維持群で一部の口腔内細菌や腸内細菌が再燃リスクと関わっている可能性が示唆された。また、潰瘍性大腸炎患者の5-ASA製剤不耐症は疾患予後を悪化させ、不耐症発症には腸内細菌叢の変化が関与していることを明らかにした(PLoS One. under review)。 さらに、Toll-like receptor 7アゴニストによって誘発された皮膚炎が腸炎悪化に寄与することと、その発症機序に腸管内のラクトバチルス属細菌が深く関与していることを示し、腸内細菌を基軸とした皮膚・腸管相関が存在することを明らかにした(Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2018)。 本研究期間内には、最適な投与法を示すことにはできなかったが、本研究を通じて、5-ASA製剤不耐症や精神疾患、さらには皮膚炎が糞便微生物移植法の新たな対象疾患となり得ることが明らかになった。
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