本研究課題では胃がんの発がん機序の解明を目的として、オルガノイド培養を胃癌に応用し、そのフェノタイプと分子学的特性の関連性に関する研究を遂行した。 オルガノイド培養を応用することにより40ライン以上の胃癌オルガノイドを樹立し、ライブラリーを構築した。このオルガノイドライブラリーのゲノム・エピゲノム・トランスクリプトームの解析を行い、さらに培養上におけるフェノタイプや成長因子の要求性、薬剤への応答性を観察し、解析結果と比較検討した。その結果、形状や多種のニッチ要求性は多彩なゲノム異常やエピゲノム変化によって生じていることがわかった。さらに、ニッチ要求性との関連性が不明であった胃がんについて解析を進め、R-spondinの非依存性にCDH1とTP53の両変異が関与していることを見出した。この両変異をゲノム編集技術を用いて正常胃上皮オルガノイドに導入したところ、R-spondin非依存性の再現に成功した。この両変異によるニッチ非依存性の獲得は、新規の胃がんの発がん機序の一つであり、この知見により新たな治療法の確立に寄与できると考えられる。 さらに、オルガノイドを線維芽細胞と共移植することによって異種移植の生着率を高めることに成功し、胃がんオルガノイドライブラリーの移植を用いてWnt阻害が有効な胃がん治療の候補となりうることを示した。 本研究で行ったヒトオルガノイドの形質より見出した分子遺伝学的特性を正常上皮に再現し検討する方法は、これまでにない研究手法であり、今後のがん研究においても有用であると考えられる。
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