研究課題
本研究は,腸内細菌が宿主に及ぼす生理的意義を分子レベルで詳細に解析するための新規ex vivoシステムを構築することを目的としている.これまでの腸内細菌に関する研究により,腸内細菌叢は宿主と複雑な相互作用の上で共生関係にあり,宿主(ヒト)と一生共存して全身の恒常性維持に重要であることが明らかになってきた.しかし,腸内細菌が宿主に作用する機能性分子の理解については未だ不明な点が多い.その1つの理由として,これまで正常な腸管上皮細胞が長期間培養することができなかったためであることが考えられるが,近年我々の研究グループにより消化管上皮幹細胞のオルガノイド培養が確立されたことから,腸内細菌研究分野のProof-of-conceptとなることが期待されている.しかし,現行の3次元オルガノイド培養法による腸管オルガノイドは,生体腸管内の管腔側がオルガノイドの内側に来てしまうため,腸内細菌と腸管上皮の相互作用を観察するためには,オルガノイドの内腔にマイクロインジェクションにより菌を注入する必要があるため,高度な技術が要求され,また汎用性が低いことが問題である.さらにオルガノイド培養法は腸管上皮のみの培養法であるため,腸内細菌の免疫細胞への応答反応を観察することが出来ない.そこで本研究は,これらの問題を解決すべく新規オルガノイド培養法を確立し,実際に炎症性疾患を引き起こす腸内細菌の同定,また宿主上皮細胞へ与える生理機能の解析を試みる.
2: おおむね順調に進展している
研究開始当初は,3次元培養しているオルガノイドを2次元化培養を行うために適した細胞外基質の選択から行った.様々な種類の細胞外マトリクスを検討した結果,ヒト正常大腸,小腸オルガノイドを安定的に,かつ長期間に渡り単相培養することが可能とするものを見出した.また,既報の腸管幹細胞培地に多少の変更を加えることで,幹細胞だけでなく腸管上皮を構成する全ての分化細胞を含む状態で培養することが可能となった.また,さらなる細胞外基質と幹細胞培地条件の適正化を行うことで,マウス小腸・大腸の単層培養も可能となった.以上のことより,今年度はヒト・マウスの腸管オルガノイドの2次元培養の最適条件を見出し,実際に腸管上皮に障害を与える腸内細菌のスクリーンを実施できたことから.おおむね順調に進展していると判断した.
今後は今回最適化した2次元オルガノイド培養法の培地組成を基に,免疫細胞との共培養を可能とする培地の条件検討を行う.また我々の予備実験の結果,腸管外組織である肝臓の炎症疾患が腸内細菌の異常(dysbiosis)に起因することを見出したので,そこで本年度は,2次元オルガノイド培養系を用いて,その責任細菌の同定と機能解析を行う.
オルガノイド2次元培養に必要な細胞外基質の選定が予想以上にスムーズに行えたため,出発材料である3次元培養したオルガノイド量が少なくて済んだ.そのために3次元培養に必須なマトリジェルや成長因子,低分子化合物の購入費が少なかったためである.しかしながら,これにより生じた次年度使用額は少額であり,使用計画に大きな変更を与えるものではない.上記の通り次年度繰越金は少額であり,H30年度の使用計画に大幅な変更を伴うものではない.H29年度同様に,次年度以降の使用計画において消耗品購入にかかわる経費も概算であるため誤差が生じる可能性がある.そこで,次年度使用額についてはオルガノイド培養に必要な試薬・消耗品の経費として使用する予定である.
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Science
巻: 358 ページ: 234-238
10.1126/science.aao3130