研究課題/領域番号 |
17K15977
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
荻野 学芳 岡山大学, 医学部, 客員研究員 (70614204)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遊離脂肪酸 / 肝臓 / オートファジー / カルシウム |
研究実績の概要 |
遊離脂肪酸の肝細胞オートファジーへの影響が小胞体内のカルシウム調整と連動していることを確認したので、まもなく論文投稿予定である。小胞体内カルシウム調整蛋白である小胞体カルシウムATPase(SERCA)、リアノジン受容体(RyR)、イノシトール三リン酸受容体(IP3R)について、高脂肪食負荷マウスの肝および遊離脂肪酸を暴露したヒト肝培養細胞で遺伝子発現解析を行ったが、いずれも有意な変化がなかった。SERCAの蛋白発現および活性についても変化がみられなかった。小胞体膜成分の抽出やウエスタンブロットの条件を再検討する方針である。飽和脂肪酸による細胞障害に対してSERCA活性化剤であるgengeroleや、既報の再現実験でカルシウムキレート剤であるBAPTA-AMの効果を検討したが、細胞障害は有意に抑制されなかった。この結果から、飽和脂肪酸による小胞体カルシウムの変化は二次的である可能性も示唆された。N-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)の肝癌抑制効果について、400マイクロモーラーでヒト肝癌細胞株の細胞死を惹起する一方で、正常細胞であるマウス初代肝細胞へは800マイクロモーラー以上で細胞障害性があることを確認した。この結果はN-3系PUFAが肝癌特異的な抗癌作用を持つことを示唆する。肝癌細胞死に伴いオートファジーが強く誘導されることから、SiRNAによるオートファジー抑制条件(ATG7とBECN1)で検討した結果、オートファジーは癌保護的に働くことが判明した。このことからオートファジー抑制剤とN-3系PUFAの併用が、より肝癌を制御できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予想に反して、SERCAの遺伝子発現、蛋白発現、活性に有意な変化がなかったことがあげられる。細胞小器官内の膜蛋白であること、分子量が比較的大きいことから、lysis bufferの組成の最適化、ウエスタンブロッティングの条件の最適化ができていない可能性もある。また、打開策として、抽出キットや超遠心による小胞体分画の抽出も試みたが成功していない。N-3系PUFAの肝癌抑制効果についてオートファジー抑制剤であるBafilomycin A1を併用して検討した場合は、Bafilomycin A1自体の細胞障害性がn-3系PUFAで抑制されるという結果であった。これはSiRNAの結果とは異なるので、他の抑制剤についても検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
SERCAの解析について、超遠心に用いる比重分離剤の組成の変更を検討する。Lysis bufferについても直接SDSや尿素による可溶化を検討する。蛋白のゲル電気泳動条件については、ゲル濃度、温度、時間の条件を変えて再度検討する。飽和脂肪酸の細胞障害やオートファジー阻害については、小胞体カルシウムが二次的変化である可能性も考慮し、小胞体カルシウム調整蛋白以外のターゲットも解析していく。具体的にはオートファジーとの関連が多く報告されてきている酸化ストレス関連蛋白を解析対象に加える方針である。高脂肪食負荷マウスでの小胞体カルシウム調整蛋白の遺伝子発現に変化がなかったことから、マウスに投与する遊離脂肪酸の種類を限定する必要があると考えられた。具体的には飽和脂肪酸のみをマウスに投与する実験系を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
SERCAの解析がおくれている事から、免疫沈降やプロテオーム解析を行なえていないことが原因である。SERCA含め、小胞体内カルシウムの変化が二次的な者である可能性も含め、飽和脂肪酸を直接マウスに投与する実験を行なっていく方針である。また、オートファジーとの関連が報告されている酸化ストレス関連蛋白の解析を行っていく方針である。
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