研究課題
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は肺動脈内に器質化血栓を生じることで肺高血圧症を来す致死的な疾患である。我々はCTEPH患者の血栓は線溶系への反応が低下しており、線溶系を抑制するThrombin activatable fibrinolysis inhibitor (TAFI)が関与していることを示した。実際にCTEPH患者の血漿中TAFI濃度、及び活性化TAFIはコントロール群に比べCTEPH患者群で増加していることがわかった。さらに、TAFI過剰発現マウスを使用して急性肺塞栓症モデル、及び低酸素暴露肺高血圧症マウスモデルを作成すると、肺動脈内の血栓が増加することがわかった。しかしながら、CTEPH患者において血漿中TAFI及び活性化TAFIが増加する機序は不明であった。そこで、今回遺伝的背景がCTEPHの発症機序や線溶能低下に関与してる可能性を考え、51名のCTEPH患者の全エクソーム解析と患者の血漿、血清のライブラリー化を行った。最初に特発性肺高血圧症に関与する一塩基変異多形(SNPs)がCTEPH患者で認められないか解析した。BMPR2に1ヶ所、ENGに3ヶ所、SMAD9に1ヶ所SNPsを認めたが、全てsynonymous変異であった。次に血漿中TAFI抗原量に関与するSNPsを検討したが、有意なSNPsは認めなかった。次に活性化TAFIに関与するタンパク質をコードするSNPsを解析した。TAFIはトロンボモジュリンにより活性化されるため、トロンボモジュリンのSNPsを解析した所、c.C1418TのSNPsを認めた。c.C1418Tはin silicoの解析でもトロンボモジュリンの機能に関与している可能性が高いSNPsであり、実際にc.C1418Tはトロンボモジュリンの発現量を増加させると報告されており、CTEPH患者におけるTAFI活性化の機序に関与する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
今回既に51名の慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者で全エクソーム解析を行うことができた。また、51名の患者の血清、血漿をライブラリー化をしており、おおむね順調に進展している。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者の約50%は急性肺塞栓症の既往のない患者であり、そのような患者において急性肺塞栓症の危険因子である一塩基変異多形が関与してるかどうかは不明である。そのため、今回施行した全エクソーム結果を解析し、CTEPH患者、特に急性肺塞栓症の既往のないCTEPH患者で、急性肺塞栓症の遺伝的背景がないか検討する。さらに、CTEPHの新規発症機序を解明するために、CTEPH特異的なSNPsがあるか検討する。東北メディカルメガバンク機構の健常人コホートの遺伝子ライブラリーと今回得られたCTEPH患者の全エクソーム解析の結果を比較し、CTEPH特異的なSNPsに関して検討する。最後に本解析で得られたSNPsの機能解析を行う。ライブラリー化した血漿を使用し、活性化TAFIや線溶能を評価し、さらに患者の肺循環動態などの臨床データベースを利用し、SNPsの有無で特徴がないか検討する。
設備品購入を検討していたが、実験消耗品の執行を優先した。次年度は、設備品購入の他、学会での発表を予定しており、繰り越し分と併せて執行する予定である。
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