研究課題
加齢に伴って心不全や糖尿病など様々な疾患を発症しやすくなり、加齢関連疾患と捉えられる。一方で、これら疾患は成人において肥満によって発症リスクが高くなり、発症機序の一つとして慢性的な炎症状態が関わると近年明らかになった。興味深いことに、加齢伴って血中の炎症性サイトカイン量やCRPが高くなるなど、基礎的なレベルでの炎症が高まっていることが分かり、慢性炎症が加齢における疾患発症の基盤になっている可能性が高い。そこで我々は、老化と肥満をその共通する慢性炎症の誘導という切り口から分子機序の解明を進めている。これまでに、肥満が内臓脂肪組織に炎症を誘導する際に、脂肪細胞の拡大だけなく数も増えていることが分かっている。元となる脂肪前駆細胞からの分化が誘導されるが、その際に、脂肪細胞だけなく他の新たな炎症性の細胞へ分化することを見出した。更に老化脂肪組織ではこの新規炎症細胞が増加していることから、肥満や加齢における炎症誘導に脂肪幹細胞による炎症細胞への分化システムが関わることが示唆された。この新規炎症細胞はケモカインCCL2を分泌することで単球を内臓脂肪に誘引し、マクロファージとして定着させることで脂肪組織炎症を惹起する。肥満や加齢によるその詳細な分子機構解析のために、シングルセルRNA-seqを行ったところ、新規炎症細胞特異的な表面マーカーの同定に成功した。更に、新規炎症細胞で発現する転写因子を基に、脂肪前駆細胞から新規炎症細胞への分化に必要な転写因子のスクリーニングを行ったところ、いくつかの転写因子が協調的に分化誘導をもたらしていることが分かった。一連の実験から、脂肪前駆細胞から新規炎症細胞への分化に介入できる機序を明らかにし、肥満だけでなく加齢による慢性的な炎症を標的とした画期的な加齢関連疾患の治療法開発に繋げられると考えられる。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Oncogene
巻: 38 ページ: 637-655
10.1038/s41388-018-0481-z.