哺乳類の心筋細胞の増殖能は生後に急速に低下するが、成体の心筋細胞の分裂能は保持・再獲得可能で、僅かながらに自己再生していることが明らかとなった。この内因性心筋再生のメカニズムを解明して増幅することは、従来の心不全治療や開発中の細胞治療(骨髄移植やiPS医療)の効果を補足して新たな治療手段となり有益である。近年、臓器の「適切な大きさ(増殖の程度)」を決めるHippo-YAP/TAZ-TEADs経路が、心筋細胞の増殖にも関与することが報告され、注目されている。本課題では転写因子TEADsの転写活性を指標に、心筋細胞増殖と心筋再生(修復)を促進する薬剤の創出を試みる。 これまでに、新規のフッ素化化合物Xが、培養心筋細胞においてTEADsレポーター活性を上昇させ、Hippo経路とクロストークするWnt/β-catenin経路も活性化させることを見出していたが、抗酸化に関与するKEAP1-NRF2複合体に直接作用し、抗酸化・抗アポトーシス作用を有することも明らかにした。現在、フッ素化化合物Xをさらに改変しており、心筋細胞分裂を促進させる化合物に必要な構造骨格を検証中である。 また、フッ素化化合物Xをマウス心筋梗塞モデルに腹腔内投与したところ、梗塞境界域での心筋細胞の細胞周期の促進とクローン性増殖が誘導され、線維化軽減と心機能の改善にも効果的であった。これらの効果には、抗酸化・抗アポトーシス作用が影響していることも明らかとした。このマウスモデルの解析をすすめ、Hippo経路、Wnt/β-catenin経路、抗酸化・抗アポトーシス作用が、心筋再生に与える影響を検証していく予定である。
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