研究実績の概要 |
哺乳類の心筋細胞の増殖能は生後に急速に低下するが、成体の心筋細胞の分裂能は保持・再獲得可能で、僅かながらに自己再生していることが明らかとなった。この内因性心筋再生のメカニズムを解明して増幅することは、従来の心不全治療や開発中の細胞治療(骨髄移植やiPS医療)の効果を補足して新たな治療手段となり有益である。近年、臓器の「適切な大きさ(増殖の程度)」を決めるHippo-YAP/TAZ-TEADs経路が、心筋細胞の増殖にも関与することが報告され、注目されている。本課題では転写因子TEADsの転写活性を指標に、心筋細胞増殖と心筋再生(修復)を促進する薬剤の創出を試みた。 約18,600種類の化合物ライブラリーから上皮細胞(2種類の細胞アッセイ系)を用いてHippo経路のTEADs転写因子を活性化する化合物をスクリーニング、得られた化合物を改変することで、心筋細胞の増殖と、心筋梗塞後の線維化軽減・心機能改善をもたらす化合物TT-10を創出した。この化合物の作用機序を検討し、心筋細胞でのYAP-TEADs転写活性を促進し、Wnt/β-catenin経路も活性化させることで、強力な増殖促進作用を発揮すること、また、RNA-seqによる網羅的な発現解析から、細胞周期の進行とサルコメア蛋白分解などの効果の他、酸化ストレス応答転写因子NRF2の効果(抗酸化・抗アポトーシス作用)も増強させることを見出した。さらに、この化合物はヒト由来iPS心筋細胞の増殖も促進することを確認しており、今後、臨床応用につなげていきたい。
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