研究課題/領域番号 |
17K15988
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 綾 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (10647887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マクロファージ特異的Arid5bノックアウト / LL/2腫瘍細胞皮下移植 / 新生血管の成熟化 / フローサイトメーター / 腫瘍関連マクロファージ |
研究実績の概要 |
転写因子Arid5bについて、炎症反応ならびに血管新生における役割・制御機構を解明することを目的とし、平成29年度はマクロファージ特異的Arid5bノックアウトマウス(Arid5b flox/flox:LysM-Creマウス)を用いた血管新生の観察と網羅的遺伝子発現検索を行った。 1. Arid5b flox/flox:LysM-Creマウスでの血管新生の表現型の検証 Arid5bホモ接合体ノックアウト(Arid5b-/-)マウスは高率に生後早期に死亡し、生存したマウスも野生型と比較し体格が非常に小さいため、Arid5b flox/flox:LysM-Creマウスを用いてマトリゲルおよびLL/2腫瘍細胞の移植実験を行った。Arid5b flox/flox:LysM-Creマウスに移植したマトリゲルでは、Arid5b-/-マウスに移植したマトリゲルと同様、野生型と比較し血管新生が低下していた。また、Arid5b flox/flox:LysM-CreマウスにLL/2腫瘍細胞を皮下移植した結果、野生型に比べ腫瘍径が大きくなった。免疫組織化学染色により腫瘍血管を染色した結果、Arid5b flox/flox:LysM-Creマウスに移植した腫瘍内の新生血管は、野生型に比較して血管径が小さく蛇行が軽度であり、より成熟した血管の様相を呈していた。以上から、マクロファージにおけるArid5bが腫瘍新生血管の成熟に関与し、血管の成熟化により腫瘍径が大きくなることが推測された。 2. 腫瘍免疫細胞における網羅的遺伝子発現検索 上記実験で採取した腫瘍免疫細胞をフローサイトメーターを用いて分離した結果、免疫細胞のうち腫瘍関連マクロファージ(TAM)の占める割合は野生型とArid5b flox/flox:LysM-Creマウスで有意差は認めなかった。セルソーターによりTAMを分離、mRNAを抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度内の予定のうち、Arid5b flox/flox:LysM-Creマウスにおける血管新生の表現型の検証は遂行した。腫瘍内部の免疫細胞における網羅的遺伝子発現検索に関しては、今年度内に、Arid5b flox/flox:LysM-Creマウスおよび野生型マウスに移植した腫瘍からTAMを分離し、mRNAを採取し、次世代シーケンサーを用いて網羅的に遺伝子発現を解析する予定であった。サンプルの採取は既に完了しているが、現在、次世代シーケンサーは真鍋研究室にあるため、真鍋研究室の協力を得ながら、順次解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析の結果を踏まえ、Arid5bを中心とした血管新生に重要なシグナルや転写機構の解明を行いたい。 Ⅲ. ARID5B蛋白の標的遺伝子の同定 骨髄由来マクロファージ(BMDM)や腹腔マクロファージ(PEC)を作成し、クロマチン免疫沈降(ChIP)によりARID5B蛋白が結合するDNAを抽出する。また、次世代シーケンサーによりARID5B 蛋白結合遺伝子の網羅的解析を行い、前年度に行ったmRNAシーケンスの結果と照合することでARID5B蛋白の標的遺伝子の候補を同定する。 Ⅳ. マクロファージにおけるArid5bの遺伝子制御メカニズムの解析 前述のシーケンスで得られた情報から同定したARID5B蛋白結合部位をプラスミドベクターに挿入し、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、ARID5B蛋白とDNAとの直接的結合を確認する。さらに、ARID5B蛋白のmRNA分解における役割についても検証したい。Arid5b flox/flox:LysM-CreマウスのPECを採取し、アクチノマイシンDによりRNA 合成を停止した後、qPCRでmRNAの分解速度を野生型と比較する。さらに、候補となる遺伝子のmRNA内にあるARID5B蛋白標的配列をルシフェラーゼ遺伝子配列の下流に挿入したベクタープラスミドを作成し、Arid5b発現ベクタープラスミドと共に導入し、ルシフェラーゼ活性強度を比較することで検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当該年度に行う予定であった、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析は、千葉大学大学院医学研究院長寿医学教授の真鍋一朗の協力を得て真鍋研究室において共同で行う予定である。今年度はシーケンサーの使用順番の都合により解析を行えなかったため、使用するmRNAの調整に使用する試薬類などの出費が次年度に延期となった。 使用計画:次年度は次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析の結果を踏まえ、Arid5bを中心とした血管新生に重要なシグナルや転写機構の解明を行う。ARID5B蛋白の標的遺伝子を同定する目的で、クロマチン免疫沈降(ChIP)を行いARID5B蛋白が結合するDNAを抽出する。そのDNAを使用し次世代シーケンサーにより網羅的解析を行い、前年度に行ったmRNAシーケンスの結果と照合することでARID5B蛋白の標的遺伝子の候補を同定する。候補となる遺伝子について、ARID5B蛋白との結合部位をプラスミドベクターに挿入し、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、ARID5B蛋白とDNAとの直接的結合を確認する。また、ARID5B蛋白のmRNA分解における役割について、アクチノマイシンDによりRNA 合成を停止した後、qPCRでmRNAの分解速度を調べる。
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