転写因子Arid5bの炎症反応ならびに血管新生における役割・制御機構を解明することを目的とし、平成29年度はマクロファージ特異的Arid5bノックアウトマウスに腫瘍細胞を皮下移植し、その腫瘍より腫瘍関連マクロファージ(TAM)を分離しmRNAを抽出した。 平成30年度は抽出したmRNAを用いて次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現検索を行いGSEAを用いて解析を行った。その結果、血管新生に関する遺伝子群において有意差を確認した。Arid5bの標的遺伝子を同定する目的でクロマチン免疫沈降(ChIP)を行い、次世代シーケンサーを用いて網羅的に調べた結果、cFosのプロモーター領域に有意な濃縮を認めArid5bの標的遺伝子の候補とした。 4. マクロファージにおけるArid5bの遺伝子制御システムの解析 前年度までの結果よりArid5bがcFosの遺伝子の発現を調整している可能性が示唆された。Arid5bのcFos遺伝子への結合領域にはAP1配列があり、直接結合を確認すべくAP1配列を導入したレポーターコンストラクションをHEK293FT細胞に導入するとともにArid5bを過剰発現し、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。その結果、Arid5bの過剰発現を行った細胞でルシフェラーゼ活性が上昇し、Arid5bがcFos遺伝子の発現を介して血管新生に関する遺伝子の調節を行っていることが示唆された。血管新生に関する遺伝子の中でVegfaはcFosによって発現調節を受けること、またマクロファージ特異的VegfaノックアウトマウスにおいてLL/2腫瘍細胞を移植すると腫瘍血管のnormalizationにより腫瘍増大傾向があることが報告されているが、今回作成したマクロファージ特異的Arid5bノックアウトマウスにおいても同様の腫瘍増大傾向を認めており、動物実験の結果を支える根拠となった。
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