研究課題
本研究開発は、RNA 代謝という観点から、心筋肥大に関わる新たな分子・シグナル 伝達を明らかにすることを目的とし下記の項目に沿って推進した。1. Btg2の標的遺伝子の絞り込み:ラット新生仔培養心筋細胞において、Btg2ノックダウン下に、フェニレフリン刺激に伴う遺伝子発現量を、RNAシークエンスにより網羅的に解析した。Btg2 の標的遺伝子は、Btg2ノックダウンによりRNA分解率の低下(半減期の延長)を示し、結果的に標的遺伝子の発現量が上昇するという仮説のもと、Btg2 の標的候補遺伝子を絞り込んだ。遺伝子発現が上昇していた遺伝子は209遺伝子が確認された。リン酸化関連遺伝子やリボソーム関連遺伝子が上位を占めていた。2. Btg2の候補遺伝子の同定2-1. Btg2ノックダウンまたは過剰発現により、上記RNAシークエンスで得られた候補遺伝子の半減期(安定性)を検証し、Btg2の標的候補遺伝子の同定を進めた。2-2. Btg2に対する特異抗体を用いて、Btg2がRNA結合タンパクを介して結合している標的RNAを免疫沈降法で回収(RNA-IP)し、次世代シークエンサーを用いた網羅的解析を行った。Btg2との結合を認めた遺伝子を絞り込むと、398遺伝子が挙げられた。RNAシークエンス、RNA-IPシークエンスで共通して同定された遺伝子は52遺伝子であった。上記の実験系を通して、Btg2標的遺伝子の同定を進めているが、これらの中には心筋肥大関連遺伝子として既知ではあるが、Rock2などRhoシグナル関連遺伝子が含まれていた。Rock2遺伝子の半減期は、Btg2ノックダウンにより延長しており、Btg2の標的と示唆される。現在、さらにBtg2標的候補遺伝子の中より、心筋肥大との関連が報告されていない新規の遺伝子の探索を進めている。
2: おおむね順調に進展している
理由 本研究開発は、RNA 代謝という観点から、心筋肥大に関わる新たな分子・シグナル 伝達を明らかにすることを目的とし、研究実績の概要に記した下記2つの項目に沿って推進した。1.Btg2の標的遺伝子の絞り込み、2.Btg2の候補遺伝子の同定。現在RNAシークエンスおよびRNA-IPシークエンスという次世代シークエンサーを用いた2つの網羅的解析を用いて、Btg2標的候補遺伝子をそれぞれにおいておよそ200遺伝子、400遺伝子と絞り込みを進めることができた。これら候補遺伝子には既知の心筋肥大関連因子がいくつか含まれていた。本年度は、これら研究成果について、日本生化学学会、沖縄科学技術大学院大学で開催された国際RNA workshopにて成果報告を行った。引き続き平成30年度に向けて研究を推進する。更に、細胞イメージングや動物モデルを用いたBtg2標的遺伝子の機能解析を進めていく。また当院のヒューマンサンプルセンターでは、臨床情報を踏まえたヒト検体を用いたRNAシークエンスのデータが蓄積されつつあるので、これらデータを解析し、Btg2の発現量によるその他遺伝子の発現プロファイルを進め、心不全の病態などとの関連性の検証を進めていく予定である。
平成29年度の研究開発において、RNA分解制御因子であるBtg2を介したRNA発現量制御標的遺伝子という観点から、培養心筋細胞における心筋肥大関連遺伝子の絞り込みを行った。平成30年度は、これらBtg2の標的遺伝子の中から、新たな心筋肥大関連遺伝子を同定するため、シグナル経路の解明や、細胞イメージングを用いた機能解析、ゼブラフィッシュといった動物モデルを用いた機能解析を進めていく予定である。また当院ヒューマンサンプルセンターにある重症心不全症例のデータベースを用い、実臨床情報と遺伝子発現プロファイリングを併せて、Btg2の関連性を検証していく予定である。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: (1):9363
10.1038/s41598-017-09716-x