研究課題/領域番号 |
17K16011
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古賀 純一郎 九州大学, 循環器病未来医療研究センター, 学術研究員 (10746142)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 分子血管学 / 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
動脈硬化性疾患は生活の質と生命予後を脅かす重篤な疾患であり、その分子機構の解明に基づく医学的対策が期待されている。我々は心筋虚血-再灌流障害の病態においてミトコンドリア分裂を促進するDrp1(dynamin-related protein 1)の機能阻害により梗塞サイズの縮小効果がもたらされることを明らかにしてきたが、動脈硬化におけるDrp1の役割は全く不明である。特に動脈硬化の様々なステージにおいて単球・マクロファージが中心的役割を果たしており、我々は単球・マクロファージDrp1の役割を明らかにすることを試みた。 上記目的を達成するためCre/loxPシステムを用い単球選択的Drp1欠損マウスを作製し、大腿動脈に機械的傷害を加えた。その結果、対照マウスと比べ単球選択的Drp1欠損マウスでは血管傷害部位へ集積するマクロファージ数の減少、内膜肥厚の抑制を認めた。培養マクロファージにおいてはDrp1の過剰発現によりIL-1βやMCP-1などの炎症性サイトカインの発現増加を認め、Drp1 siRNAによるノックダウンではこれらサイトカインの減少を認めた。 以上の結果は単球・マクロファージにおいてDrp1がこれら細胞の活性化を通じ血管病の病態を促進することを示唆するものと考えられた。引き続き、Drp1による単球・マクロファージ活性化の詳細な機序につき検討する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題において1)Drp1が単球・マクロファージ代謝に及ぼす影響、2)Drp1がミトコンドリア膜電位に及ぼす影響、3)単球・マクロファージ-平滑筋相互作用の解明を平成29年度の到達目標として掲げていた。 近年、炎症性マクロファージにおいて解糖系への代謝シフトが生じることが報告されており、単球・マクロファージDrp1の機能阻害により糖代謝がどのように変化するか検討を行った。その結果、Drp1の機能抑制により解糖系の最終産物であるL-乳酸の産生抑制を認めた。 また、ミトコンドリア膜電位はミトコンドリア機能と密接に関連しており、膜電位の喪失によりアポトーシスシグナルが活性化されることが知られている。単球・マクロファージ活性化における膜電位喪失の意義は不明な点が多いが、申請者は単球・マクロファージDrp1の機能抑制により炎症性マクロファージにおいてみられるミトコンドリア膜電位の喪失が抑制されることを見い出した。 最後にマウス血管傷害モデルにおいて認める新生内膜の構成成分は平滑筋細胞が主体でありDrp1欠損マクロファージの培養上清によりラット大動脈平滑筋細胞を刺激し増殖、遊走に与える影響を検討した。その結果、同数の対照マクロファージの上清で刺激した場合と比べ平滑筋増殖、遊走に明らかな差は認めず、生体内における病変形成の抑制はマクロファージの数自体の減少がより重要であることが示唆された。 以上の様に平成29年度の到達目標については概ね達成することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度はDrp1によるマクロファージ機能制御の分子メカニズムを更に解明するため下記の検討を行う。1) Drp1機能がミトコンドリア由来活性酸素種産生に与える影響の検討、2)Drp1機能阻害により活性酸素種産生が抑制された場合、その機序についての検討、3)活性酸素種により活性化される炎症活性化経路(NF-κB経路など)にDrp1が及ぼす影響についての検討、を行う。 以上によりマクロファージ活性化機序におけるDrp1の役割が明らかになればDrp1を標的とする新規治療についての検討を行う。具体的にはDrp1阻害作用を有するMdivi-1を薬剤送達システムを用いて単球・マクロファージに効率的に送達し、各種、動脈硬化性疾患モデル動物における有効性を評価する。
|