平成29年度、単球・マクロファージ選択的Drp1欠損マウスの大腿動脈にワイヤーによる機械的傷害を加えると、対照マウスに比べ血管傷害後の内膜肥厚が抑制されること、血管傷害部位へのマクロファージ集積が抑制されることを見出した。また、培養マクロファージをLPSおよびIFN-γにて刺激した際に生じる炎症性マクロファージへの分化誘導が抑制されることを明らかにした。そのため、今年度はDrp1によるマクロファージ機能制御の詳細な分子機序について検討を行った。 その結果、1)単球・マクロファージDrp1欠損もしくは機能抑制によりミトコンドリア由来活性酸素種の産生が抑制されること、2)解糖系の最終産物である乳酸産生が抑制されること、を見出した。活性酸素種はその下流のNF-kBを介し炎症性マクロファージにより産生される各種サイトカイン(IL-6、MCP-1など)の発現を促進することが知られており、Drp1機能抑制により活性酸素種の産生が抑制されたことはIL-6やMCP-1の発現が抑制された機序の一つと考えられた。また、炎症性マクロファージでは糖代謝が解糖系へとシフトすることが知られており、Drp1欠損により乳酸産生が抑制されたことは糖代謝の面からもDrp1が炎症性マクロファージへの分化誘導を促進することを支持する結果であった。 以上により急性血管傷害後の血管壁においてDrp1はミトコンドリア分裂を誘導するとともに活性酸素種産生、炎症性サイトカインの産生促進を通じ、炎症とその結果としての血管内膜肥厚を促進することが示唆された。
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