本年度は今まで収集していた検体を用いてsoluble neprilysin(sNEP)の測定および解析を行った。使用したELISAキットについてはいくつかの論文(Zelniker TA et al. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2018 Nov 19:2048872618815062.およびReddy YNV et al. J Am Heart Assoc. 2019 ;8:e012943)でR and D systemsのELISAキットが使用されており、実際に測定した結果ばらつきが少なかったため、このキットを使用した。事前にサンプルを収集した137名の心不全患者を対象にsNEPを測定した結果24名は測定限界以下もしくは上限以上であり、測定可能症例においてその中央値は928.8pg/mlであり、これは一般集団を対象としたReddy YNVらの研究結果と比較(中央値3900pg/ml)して低値であった。sNEPと年齢や左室駆出率やBNP、BMI、腎機能、Cardiac indexとの相関は認めなかったがPCWPとは弱い相関を認めた(ρ=0.246)。sNEPの中央値によって2群に分けて死亡および心不全による再入院について検討したが、sNEP値は予後予測因子ならなかった 拡張型心筋症症例(n=100)のみで同様な検討を行ったがsNEPの中央値は1053.25pg/mlでsNEPと相関がある因子はなく、sNEPは総死亡を予測する因子にはならなかった。 また30名の心不全を対象に大動脈基部と冠静脈洞から同時にsNEPを測定し、冠循環中に放出されるsNEPを検討したが、ΔCS-Aoの中央値は-5pg/ml、値のばらつきも大きく冠循環中へのsNEPの定量的評価は困難であった。
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