研究課題
ミトコンドリア鉄代謝異常は酸化ストレスを介して心不全を発症・進展させうるが、詳細は未だ不明な点も多い。本研究では、種々の心不全モデルにおける心筋ミトコンドリア鉄含有量の評価と、収差補正走査型電子顕微鏡Titanを用いたエネルギー分散X線分光法(EDS)によるミトコンドリアにおける鉄のマッピングを試みた。左室収縮能が低下する心不全モデルであるドキソルビシン心筋症マウスでは、生化学的手法で定量した心筋ミトコンドリア鉄含有量が増加していたが、EDSによる鉄のマッピングではミトコンドリアクリステ上には鉄のシグナルはむしろ少なく、特定の領域への鉄の集積や凝集は認めなかった。以上より、ドキソルビシン心筋症ではミトコンドリアにおいて活性酸素産生を触媒する遊離鉄が増加していることが示唆された。次に、左室拡張障害を呈する肥満2型糖尿病ラット(OLETF)では、非糖尿病コントロール(LETO)に比べ酸化ストレスを反映する過酸化脂質の増加を認めたが、ミトコンドリア鉄含有量やEDSによる鉄のマッピングは両群で差を認めなかった。以上より、OLETFの心筋酸化ストレス亢進は、ミトコンドリア鉄代謝とは独立した機序であることが示唆された。最後に、SDラットを5/6腎摘した腎不全モデル(SNx)における心筋ミトコンドリア鉄代謝を検討した。血液ヘモグロビン濃度、血清鉄、不飽和鉄結合能は、腎筋膜のみ剥離したShamに比べSNxで有意に低値であったが、心筋鉄含有量はミトコンドリア分画および細胞質分画の両方で両群に差を認めなかった。血液中の鉄の変化は必ずしも心筋内の鉄の変化を反映せず、臨床応用可能な心筋ミトコンドリアの鉄評価方法の確立が重要であることが示唆された。以上を踏まえ、今後は患者の心筋生検標本でミトコンドリア鉄定量とマッピングを試み、ミトコンドリア鉄代謝異常が関与する心不全の患者像を明らかにしていきたい。
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